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機械廃棄人壱と半分-二十三夜-

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□ フィンディア □



-----終わりよければ全てよし、聴こえの良い言い訳。


雨を忘れたかのような青い空が広がっていた。ぼんぼん、と白い花が上空ではじけ、街は人ごみと活気に満ちていた。
今日は、東南地区の祭りの日。
この国の中央都市は北を一番上にして、北地区、北東地区、東地区、東南地区、南地区、南西地区、西地区、西北地区、と大きく八つに分かれている。廃棄人の生活する為の部屋は、この東南地区に存在していた。

「随分と人が一杯ね」
「…そうだな」

廃棄人と少女の二人は、その渦中に身を投げ込んでいた。ぐるり周囲を見渡すと、窓には色とりどりの布が掲げられ、窓からは花びらに似せた白色や桃色や赤色と言った柔らかい紙が投げられている。通常の商店以外に、出店も出ていた。街の声は太陽の輝きに溶け眩しさが増している。明るさに囲まれながら、二人は道をあれこれ散策しながら歩いていく。少女は眺めたり、触ったりして祭りを楽しんでいるように廃棄人には見えた。見ていて飽きないわね、と少女の笑い声が耳に届く。ああ、と短く彼は答えた。少女の明るい声と笑顔。それが、一番彼にとって最も嬉しい事だった。


「そう言えば、この服どうしたの?」

隣で少女が不思議そうに質問を投げかけて来る。彼らは、街の本通より少し外れた所にある公園に移動していた。少女が歩き疲れたと言ったので、ベンチがあるここに移動してきたのである。

「ん?頼んだ、先生に…」

廃棄人は、手に持っていたビンに入っている水を喉に流し込み、そう答えた。そう、と頬を赤らめて少女は俯く。少女の受け答えを見て、廃棄人は胸が温かくなかった。

(ありがとう、先生…)

心の中でありったけの感謝の念をこの衣装を渡してくれた男性に向けて呟いた。


数ヶ月前、廃棄人が先生、と呼んだ男性の所へ行った時にこの衣装のチラシが合った。どうやらその衣装の売込みをする為のショウをする、と言う宣伝チラシのようだった。
「是非配ってください、と輸出協会に頼まれまして…困っているんですよ」

苦笑しながら、チラシを廃棄人に渡す。それを眺めていた少女が、着たい着たい、と駄々をこね始める。男性に聞いた所によると、その衣装は男性の国の季節のもので「浴衣」と言うものらしい。

「私のサイズでしたらあるのですが…お二人位のサイズは直ぐに用意は難しいですね」

と申し訳なさそうな声で少女を宥めた。外の国のものな故、生地も高い。仕立てられる人間も少ない。ショウの時に購入したとしても、結果としてはやはり高いものだ。よって、高い事に変わりがない。
実際金額をこっそり聞いた時は、心臓と目玉が飛び出そうだった。明らかに即購入できる値段ではなかった。その金額は一体幾つ仕事をすればいいのか、と頭の中で数えて愕然とした。彼の脳内のことはお構いなしに、少女は瞳を輝かせながら欲しい欲しい、とおねだりをする。その時は結局答えが出せず、何時か、と言葉を濁してやり過ごした。濁されたものの裏を読み、その場は引いた、だが

「必ずね!」

と念押しは忘れない少女がいた。

今日は、そんな高い金額のものを着て、祭りの中を歩いているのだ。すれ違う人々は彼らの珍しい服装を気にして必ず振り返る。少女にとってはそれも気持ちが良かったのだ。
満たされた少女が不思議そうな表情で問いかける。

「でも、良く手に入ったわね。おじさまは、すぐは無理だよ、って仰っていたでしょ?」
「ん…あぁ…」

それは突然だった。ティエラディアの朝、男性から電話が掛かってきていた。何時もの柔らかく優しい声でこう伝えてきたのだ。

「先日仰っていたものが手に入りましたから、お渡しします。あぁ、なるべく早い方が良いのですが…私の仕事にある程度決着をつけてからで…そうですねぇ…。では、鐘がダブル三つの時にしましょうか。場所は…そちらの近くに喫茶店がありましたよね?そこにしましょう」

此方の予定も聴かずに、さくさく予定を決められてしまい、はいとしか答えられなかった。先日自分が言ったものとはなんだろう、と電話を切った後も廃棄人は分からないままだったのだ。
約束した喫茶店に行くと、銀髪の青年を連れた初老の優男が静かに座っており、手短に、と切り出してテーブルの上に縦長の長い包みを置いた。
きょとんとしていると、男性はどうぞ、と優しく開く事を促す。可愛らしくちょうちょ結びされた紐を解くと、目の前に以前チラシで見たものと同様のものがあった。

「…こ、これはっ…

慌てて男性を見ると、やはり変わらず優しい微笑を廃棄人に向けている。衝撃で口をパクパクさせて言葉が紡げないのを見て、男性は話を先に進める為の道標を作ってくれた。

「直ぐには難しかったので、お時間を頂きました」
「…」

凍り付いて何も答えられない廃棄人に暖かい風のように語りかける。

「彼女の分は、私の姉のお下がりで申し訳ないのですが…。袖を通していないものをお願いしたので大丈夫ですよ。貴方の分は、姉に頼んで私のものを少し直して貰いました。私が選ぶものですから若い方向けではありませんが…」
「そ、そ…」
「そ?」
「そ、そんな!!そんな事ないです!!有難うございます!!」

廃棄人は立ち上がり何度も何度も頭を下げた。
余りの大きな声に銀髪の青年が一瞬眉を不満げに上げる。店内にいるもの達の視線が一斉に此方に向いたからだ。気にしないで下さい、と伝えるが受ける分又廃棄人は深く頭を下げて大きな声で御礼を口にする。九十度の礼をしたまま固まり続ける事、数分。はたと彼はある事に気が付き、がばりと顔を挙げ男性を見つめた。

「あ、あのっ、先生!」

顔は青ざめている。その行動に吃驚してしまったが、彼が青ざめている理由を瞬時に理解した男性はにこり微笑む。

「彼女用は、姉のお下がり。貴方用は、私の私物。気にしないで下さい。姉も女の子にプレゼントが出来ると喜んでいましたから」
「で、でもっ…」

掌を彼に向けて、男性は次の言葉を遮る。

「好意は受け取ってください。もし代金を、と仰るならば…そうですね…。私が困った時に助けて頂ければ、それで十分ですよ」

男性からの提案を聴いた廃棄人は背筋を再び伸ばし、宣言する。

「はい、困った時は何時でもお呼び下さい。必ず先生の元に直ぐに駆け付けます!」

言葉を聴いて、男性は柔らかい日差しのような笑顔を向け

「それは心強いですね。ありがとう」

と心からの思いを伝えた。



「一体何を読んでいたんだ?」
「ん?あぁ、これ?」

少女は今着ているものと不釣り合いな分厚い表紙が皮製の本を脇に抱えていた。
表紙を廃棄人に向ける。
表紙には、「プリンセサ・デ・セグエダド」と書かれていた。
じっと見つめ意味を考えてみるが、全く分からない。最初に首を傾げてから数分経過すると言うのに体勢が全く変わらない廃棄人に少女は呆れる。見せていた表紙を胸で隠し、少女は廃棄人を睨みつけた。引きつった笑顔で彼は答える。