機械廃棄人壱と半分-二十三夜-
言葉の後ろの理由も分からないまま感謝をする廃棄人に、声を出して笑ってしまう男性。
「どーいたしまして」
手をひらひらさせて廃棄人の前から去ろうと踵を返したが、何か思いついたのか又廃棄人の方へ体を向けた。彼は帰る準備をして、椅子から立ち上がっていた。
「?」
視線が合って廃棄人が不思議そうな色を表情に落とす。多分彼と余り顔をあわせたり、確り話したりしなければ分からないだろう変化だ。
(此処も変わってないな…本当に)
心の中で呟き、男性は一つ提案をした。
「何か胸の中にあるのなら、それを解決できそうな人がお前にいるだろう?そう言う時だってその人にアドバイスを求めてもいいんじゃないか?仕事の話だけじゃなくてさ」
はっ、とした表情をする。一人で抱え込む癖が悪い方向へ作用していたのだ。周囲が見えず、自分の中で答えを出そうとしていた。
その事に廃棄人は気がつかされた。
確かに一人いた。人生経験豊富で、自分とは違う視点の持ち主。
自分が少しだけ素直になれる瞬間を作ってくれる人物。その人の顔が浮かんだ。表情の色が変わった事を男性は確認し、じゃぁ又な、と彼の前を去った。
「ありがとう」
廃棄人は、背中を向けた人物に感謝の気持ちを伝えた。その言葉に左手を振って男性は答える。大きな鐘の音が時間を告げる。此処に来て既に、鐘一つ分が過ぎていた。背中を見送ってから彼は考える。
(此処を出たら直ぐ近くに公衆電話気があるな…)
胸を覆っていた霧は、少し遠くに光が見える様な、そんな印象を感じている。そこへ駆け込んで早く電話をしたい気分に廃棄人は駆られていた。
作品名:機械廃棄人壱と半分-二十三夜- 作家名:くぼくろ