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機械廃棄人壱と半分-二十三夜-

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■ ニトラディア ■



----燃える様な思いは炭となって、決して残らないものになる。


その日は雨上がりの、蒸し暑さが強かった。ぼんやり空を眺めていると、不意に背後から、お疲れ様と、釜担当から声をかけられる。

「…ああ…」

サインを求められ、書類にサインをする廃棄人。今日は、完全廃棄処理の為、機械を溶かすための釜がある北部に来ていた。勿論、一人で、である。少女は、

「熱い所は嫌い」

と眼も合わせずに一言伝え、部屋で一人留守番をしているのだ。

「あぁっ、そこはいいって!」
「…あ…」

心此処にあらずのままペンを進めたら、必要のない所まで記入していた。苦笑しながら、大丈夫と釜担当の男から言葉が返って来る。すまないと頭を下げ、鞄を肩から掛ける。数歩歩き出した時に、

「おいっ!」

と声を掛けられた。ゆっくりと降り返ると、先程の男が心配そうな表情で近付いて来るのが見えた。

「何だか、今日お前可笑しいな…」
「……そうか?」
「ああ、可笑しいよ」
「……そうか……」

ふうっ、と軽く溜息を付き男は頭をガリガリとかいた。無言で下を向いている廃棄人。帰る…、ポツリ呟いて歩き出そうとするのを又男が止めた。

「一寸待ってろ」

走って彼は釜のほうへ戻っていく。後姿を見送りながら、廃棄人は溜息を深く付く。
風が吹いた。汗でぬれた前髪が重くも、流れに合わせて揺れる。
今日も少女と上手く会話が出来ていない。理由はまだ分かっていない。だから、

(…不安なのかもしれない…)

何となく「不安」という言葉が過ぎった。今までにそんな思いを抱いた事はあっただろうか。

(…あったかもしれない…)

そうであったとしても、こんなに長く重いものだったかどうか。

(…分からない…)

首を横にふるふると振っていると、男が戻ってきていた。

「大丈夫か?本当に」
「…あ、…あぁ…」

心配そうな視線を受けて、はたと我に返り、廃棄人は恥ずかしさを感じた。慌てて背を向け口を押さえて平静を保とうとする。多分顔も耳も赤い。あからさまに可笑しい行動を目の前にして男は、苦笑しながらその広い背中をぽんぽんと叩いた。

「分かった、分かったよ。
 ほら、これ持って行けよ」

かちゃんとガラス製品がぶつかる音がした。
ゆっくり男の方へ体を向け、差し出されているビニール袋を受け取った。中身を確認すると、茶色の小瓶が二本あった。
持ち上げると液体が動くのが見える。

「好い栄養ドリンクだよ。体に喝を入れて働けよ、新人!」

親指をぐっと立てて、ウィンクをされる。どう反応したら良いか分からないが、男性の笑顔と心遣いに感謝し、深々と頭を下げる。男性と別れ一人で歩き出し数分経過した頃に、ぴたり足を止めて、空の顔色を伺う。
変わらない過去を示すようなモノクロで覆いつくされている。胸に、小さく何かがぶつかる鈍い音がした。

(今一瞬だけでも、雲が晴れれば…)

廃棄人は、そんな気持ちが広がっていくのを感じていた。