もう一人の私 (Another me.)
世の中の変化をもし形象化させて表現すれば、サバンナを駆けるチーターのごとく速いと言える。そしてその実体は、ますます進化していってる。
結果、予想だにしていなかったことが突如として起こってくるものなのだ。
例えば、以前の話しだが、駆除できない狂パソ病(パソ海綿状脳症)が猛威を振るったことがある。
いわゆるパソコンの狂牛病版。ネット通信から異常電子プリオンを摂取して感染する。そして潜伏期間三日で、画面に震えがきて、スピード発病するのだ。パソコンのシステムがスポンジ状となり、ある日突然とんでもない文字化けがあったり、有らぬメールを勝手に送ったりする。
そんな症状の治療は、これと言った手だてがなく、感染の疑いのあるパソコンは全部廃棄処分にするしかなかったのだ。お陰様で、これで世の中のほとんどのパソコンは新機種へと変わってしまった。
そして最近は、さらにウィルスの進化も進み、[Security Tool] と言うヤツが暴れている。ネットからのアプリケーションに紛れ込んで侵入してくるトロイの木馬。
ご親切にも、英語で、「あなたのパソコンはウイルスに感染しています、駆除されますか?」なんて心配そうに聞いてくる。
そして、クレジットカードでセキュリティソフトを購入した方が良いよってお薦めまでしてくれるのだ。ホント、お節介なヤツだ!
高見沢もそれはそれなりのサラリーマン。いろいろな苦いパソ経験。それらの学習効果もあってか、最近は用心深くなっている。
だが、この画面内に溢れに溢れた未読メール達。これには堪(たま)らない。
「最近のパソコンは、感染予防で随分と壊れなくなったよなあ、その分、メールがどんどん積み上がるばっかりで、もうタマランよ。あ~あ、パソコン丸ごとゴミ箱に放り込んだあの狂パソ病が懐かしいよ」
そんな不届きなことをぼやいてしまっている。
そんな時に、朝の通勤電車の中に、ぶら下がっていた広告、それをふと思い出したのだ。
作品名:もう一人の私 (Another me.) 作家名:鮎風 遊