もう一人の私 (Another me.)
「高見沢さん、この子達はね、勝手にメールを送り付けたりして人様に迷惑をかけるのですよ。駆除しないと犯罪になりますよ」
高見沢は、パソ生き甲斐の小姐から強い調子で諭された。
「いいじゃないの、別にムキにならなくても、どちみち実態のない『Another World 』(もう一つの世界)の話しだろ。それに俺は、メールの処理に人生のほとんどの時間を費やしたくないんだよ。パソコンに縛られずに、もっと自由奔放に生きたいだよ!」と、思わず反論しかけた。
「自由奔放に生きる!」
なんとカッチョイイ決めゼリフだろうか。
だが高見沢は声に出しかけて、やっぱりこの言葉を飲み込んでしまった。
なぜなら、サラリーマン社会の掟。それは、『自由奔放に生きれば、獄門磔(ごくもんはりつけ)の刑』。その掟にあまりにもハマリ込んでしまう。
されど、高見沢を取り巻くIT社会。めまぐるしくどんどんと進んでいく。
高見沢の座右の銘は、『時の流れに身をまかせ』。風流そのものに、ふーらふらと。
これは、ビジネス最前線から早々と離脱していることを意味する。そして最近はこんな気楽なことを言ってる場合じゃなくなってきた。時の流れに身をまかせるなんて、とんでもない。また現実にできっこない。
なぜなら、高見沢はどだい最初から、IT時代のハイスピードの時の流れには乗り切れない管理職なのだ。
作品名:もう一人の私 (Another me.) 作家名:鮎風 遊