嘆きの運命
祥子は結婚が遅かったため、それなりに料理も裁縫も、また生け花までも、いわゆる昔でいう花嫁修業というものは、ほとんどこなして来ていた。
それなのに祥子は、夫にそこまで酷いことを言われ、日々ストレスがどんどん溜まってゆくのを感じていた。
それでも、子供ができたことを知った頃から、哲夫は少しは優しくなった。
《元々そんなに冷たい人じゃないんだ》
その時だけは祥子もそう思った。
学が生まれて小学校に上がるまでは、夫は家庭では良き父だった。
しかし、それまでだった。
小学生になった学は知恵がついてきて、父親に逆らうこともあった。
そんな時に哲夫の言うことは決まっていた。
「お前みたいな子供に何がわかる!! 何でもお父さんの言うことをハイハイと聞いてればいいんだっ」
哲夫は普通の家庭に育ってはいたが、一人息子だったせいもあって、家庭内では王様状態だった。
母親はもちろん、父親も息子の言いなりだった。
ただ、努力の必要性だけは、執拗に両親から教えられて育ったらしく、仕事に関してはひたすら努力の人だった。
それが功を奏して今のポジションにつながっているのだ。
ところが悲しいかな、思いやりというものは、自分がもらうものだとしか思ってなかった。
そしてそのために、自分が他人から愛されない人間だということも分ってはいなかった。
だが祥子は、とても忍耐強く、ストレスを抱えながらも夫に尽くしていた。
そしていつかは、夫が優しくなってくれる。
そう信じてその日を待っていた。
そんなある日のこと。
その日も朝から鬼岩は、社員の1人をこっぴどく怒鳴りまくっていた。
そして、思わず椅子から立ち上がった時、突然倒れた。
「部長! どうしました? 大丈夫ですか?」
部下たちの声が聞こえたが、そのまま意識が遠くなっていった。