嘆きの運命
「ん?ここは…?」
目が覚めた岩沢は、一瞬自分がどこでどうしているのか全くわからなかった。
目の前には天井が、暗い中にぼんやり白く見えていた。
左右を見渡してようやく自分の居場所が理解できた。
「ここは応接室じゃないか。なんで俺はこんな所に寝てるんだ?」
岩沢のからだは、応接室の皮のソファの上に横たわっていた。
「俺はここで何をしてるんだ?」
少しふらつく頭を懸命に働かせて思い出した。
「そうだ! あいつを怒鳴ってる時にいきなり倒れたんだ! そう言えばあの時、誰かの呼ぶ声がしたなぁ、部長大丈夫ですか? って…。うんそうだ!確かにそうだった」
岩沢の記憶は少しずつ復元されていった。
「それにしても、どうしてこんなに暗いんだ?それに人の声もしない。ここは営業部の部屋の片隅にあるんだから、他の者の声がしないはずはないのに…」
部屋の明かりはすべて消えていて、ふと右手を見ると、常夜灯だけが灯っているのに気が付いた。
「へっ? もう夜なのかぁ?俺はそんなに長い時間気を失ってたのか……」
起き上がって重い頭を振ると、また怒りが湧いてきた。
「どうして、俺1人を残してみんな帰ってしまうんだ! 普通なら声ぐらい掛けて帰るのが普通だろ! それを何も言わず、起こしもしないで帰るなんて、なんて薄情な奴らなんだっ」
身勝手な怒りに震えながら、それでも家に帰るため自分の机の所に行き、自分のかばんを手に会社を出て、いつもの駅に向かって歩いて行った。
駅に着いて時計を見ると、夜の7時を過ぎたところだった。
電車に乗れば自宅までは40分だ。
待つほどもなく電車がやって来て、乗り込むといつもよりも空いていた。
「この時間はこんなに空いてるんだなぁ、いつもは満員電車なのに……」
ぼんやりそんなことを考えながら、車窓の薄暗い闇を見ていた。