嘆きの運命
翌日会社に行った岩沢は、ついいつものように、部下を自分の机に呼びつけると、その者に向かって言った。
「おい、お前!……」慌ててあとの言葉をぐっと飲み込んだ。
そうだ、あのじいさんに、部下にも優しくするように言われたんだった。
そう思い出して、急に態度を変えた岩沢は、その部下に向かってこう言った。
「おい、君。ここが間違っているようだよ。きちんと直したまえ」
「はいっ。……えっ!?」
その男は、そう言ったきり、口をポカーンと開けて、次の言葉を待っていた。
これだけで終わるはずがない。そう思っていたのだ。
「よし、じゃあもういいぞっ。席へ戻れっ」
「えっ、部長、それだけですか?」
「それだけですかって…、他に何か用があるのか?」
「い、いえ……、何もありません。失礼します」
そう言うとその男は慌てて、そして不思議そうに首をひねりながら自分の席に戻った。
「おかしい!! どう考えても今日の部長の態度はおかしい」
そう考えたのはその男だけではなく、その場面を見ていた他の者も全く同様に思っていた。
当然のように、その日の昼休みは、鬼岩の変貌ぶりを伝える噂話が社内を駆け巡った。
しかし一週間もすると、みんな鬼岩の新たな態度にも慣れてきて、毎日怒鳴り声がする、などということは過去のこととなっていった。
もちろん『鬼岩』と囁く声も、次第に消えていった。
家庭でも岩沢は、2人に約束したように、優しい家族を努めていた。
運命の神は部屋の一角に陣取って、ずーっと岩沢の様子を伺っていた。
「うん、なかなかちゃんとやっておるわ。これなら良いのぅ」
運命の神は満足そうに頷いた。
「これで、わしのポイントもちっとは上がるじゃろうて」
「あっはっはっは…」