嘆きの運命
岩沢は、息子が苦しいと言っても、すぐには離すことができなかった。
失くしてからわかる大切なもの。
そのひとつがこの息子だったのだから。
しばらくして岩沢は、ようやく息子を抱き締めた腕を離した。
「学、お父さん、これからはお前の勉強も見てやるし、休みの日には、一緒に遊ぼうな。学校の父親参観日にだってきちんと行ってやるぞ!」
「へぇ〜、お父さん急にどうしたんだよぉ」
「どうだ、嬉しいか?」
「うん、もちろん嬉しいよ。今日のお父さんて、今までよりずっと優しい気がするよ」
「あぁ、これからはずーっと優しい、いいお父さんになるからなっ」
「うん! お父さん大好きだよ!」
今度は学が、父親に抱きついた。
その息子を、岩沢は脇に手を入れて、ぐーっと目の高さまで抱き上げ言った。
「さぁ〜、学。腹が減っただろう。お父さんと一緒にご飯を食べよう」
「うん、僕もうお腹ペコペコだよ」
岩沢はテーブルに着くと、祥子と学と自分の3人で食事をした。
今までだって一緒に食べていたはずなのに、なぜか初めて家族との食卓に着いたような気がした。
今まで俺は、一体何を食べていたんだろう。
祥子の料理をなぜ美味しいと思わなかったんだろう。
どうして家族団欒というものを楽しまなかったんだろう。
後悔も含めた色んなことを、自問自答しながら、祥子の手料理を食べ、その美味しさを味わった。
その夜岩沢は、運命の神と名乗ったあのじいさんに、感謝して眠った。
そしてこれからはずっと、祥子と学ぶの良き夫、良き父親になろうと心に誓った。