かけおちシンデレラ
操は思いだしわらいをして止まらない。英作はなぜ自分が王子様役をするはめになったか今になって思い当たった。それは操が姉たちと相談して決めたのだろう。戦後といえ、庄屋の娘に逆らえなかったのだろうと思ったからだ。操の姉達はそのまま操のやるシンデレラの姉達役になった。
「振り袖姿のシンデレラっておかしいね。」
英作も思い出して笑った。
「ダンスが盆踊りだしね」
操が手を頭の上にかざし首を傾けながら笑った。
「そして、ガラスのくつではなく下駄だったけどね」
「そうそう、慌てて家に帰る時に鼻緒がきれて」
「あっ、さっきと一緒だ」
「私って村のシンデレラ、ははっははは」操が笑った。
英作はその笑顔に見とれてしまった。この笑顔を曇らせてはならないと心に誓う。
歩き出しながら、操は「もっと、ずーっとまえから、英作さんが好きだった」と言った。
「ねえ、私が十歳ぐらいの時、親戚の子供たちだけでご飯を食べたこと覚えている」
操の声の調子がぐんと明るくなって言うので英作はその横顔を見た。夢みる少女の頃を思い出しているのだろう。晩秋の日差しが正面から当たって輝いている。
「お祖母さんの何かの祝いの席だたっとおもう」
「そう、それでね、私ったらわざわざ英作さんの隣に座ってね」
「そうだっけ」
「他の男の子たちは箸のもちかたも変だし、食べ方もきれいじゃなかったのね」
「ふうん」
「英作さんはね、食べ方が上品だし、指がきれいだなあって思ってたの」
英作は話が途切れたので操の顔を見た。照れているのか西日が当たっているせいかほんのり赤い。ズキンという感覚が英作を襲う。