かけおちシンデレラ
まだ将来も決められず、農作業の手伝いをしているだけの英作だが、女体への欲望だけはしっかりあるとみえ、操の胸に視線が張り付きそうになる。それを無理に剥がして、英作はその気持ちを悟られまいとするように、急に走り出した。
「なによ、どうしたの」と操の声が後ろから追いかける。
「畑まで競走だ」英作はとっさにそう言った。
「ようしっ」という操の声がしたと思ったら、いつの間にかもう隣に並んでいる。ちらっと横目で見ると、かなり本気の顔だ。負けず嫌いの子供っぽい表情に戻っている。
さつま芋の畑へは登り坂である。英作は大股にずんずん走る。操の足音が機関銃のように細かく早い。あと少しという所で英作は息切れがしてきて速度が落ちた。操の機関銃はまだ無事のようで、英作の脇を走り過ぎた。
畑の脇の雑草の上で息を整えている操の側に坐り、英作はぜいぜいいいながら「負けた」と言った。操の勝ち誇った顔が西陽を浴びて輝いていた。
「何もまあ、走ることもなかろうが」と母が、二人が子供っぽいのを見て、安心したように笑いながら言った。