リンコ
その夜悠介は夢を見た。また、あの紫の服の少女の夢を――。
――悠介はベッドに横になっていて、気が付くと傍らに少女は立って、じっと悠介を見下ろしている。その瞳には、底なし沼のような暗い悲しみを湛え、僅かに潤んで見えた。
「どうしたんだぃ?」
そう聞いたつもりが、声が出ない。
あっ、そうか……夢の中なんだ。と、頭のどこかで考えている自分がいた。
声は出せなかったが、自分の想いは彼女に通じている。なぜかそう確信できるのに、彼女はやはり無言で悠介を見つめるだけで、その姿はまるで絵画のように動くこともしない。
「どうしたんだ……」
そう思いながらも悠介は深い眠りに沈んでいった。
翌朝、目覚めた悠介は、枕元の時計を見て我が目を疑った。明らかに寝坊してしまった。
「どうして……」
ここ最近はいつもりんこが起こしてくれるから、すっかり彼女に頼りきって、まるっきり目覚まし時計をセットしていなかった。
「りんこ、どうして起こしてくれなかったんだ!」
悠介は焦って、やや八つ当たり気味に言葉を吐き出した。りんこは何も答えない。
こんなことしてる場合じゃない。急がないと遅刻してしまう。そう気付いた悠介は大慌てで顔を洗い、着替えを済ませ、いつものりんこへの水やりもせずそのままバタバタと出掛けて行った。
その後ろ姿に、悲しみに沈んだ声でりんこが「行ってらっしゃい」と言ったのは、悠介の耳には届いていなかっただろう。