リンコ
その夜悠介は夢を見た。
夢の中には、それは可愛い娘が現れて、ベッドで横になる悠介の傍らで微笑んでいる。
彼女は年の頃は二十歳くらいだろうか。紫色の洋服がやけに似合っている。紫なんて本当は熟年の女や、水商売の女にしか似合わないと思っていたのに、こんな可憐な少女にも似合うんだ……。
そんなことを考えていると、ベッドに寝転ぶ自分の横にするりと入って来た。
「えっ、どうして……」
その娘はひと言もしゃべらない。
しかし、その顔には優しげな頬笑みを浮かべている。
せっかくそんな素敵な娘が横に並んで寝転がってくれても何もできない。悠介はまだ女を知らないから、どうにかしたくてもどうして良いやら分からないのだ。
何もしようとしない悠介に、その娘はそっと伸びをして、悠介の唇を指で触れ、そして可愛いピンクの唇を近づけて来た。
「えっ! ちょ、ちょっと待って!」
慌ててそう言ったつもりだが、実際には声は出ていない。
「そうか、夢だったんだ」
夢の中で、なぜか納得している。
悠介にとっての初めてのキスは、限りない優しさと温もりを感じさせるものだった。
眠っているはずなのに、自分がすぅ〜っと瞳を閉じたと感じた。
彼女からは秋のそよ風の薫りがした。優しい秋の風に乗って、彼女とワルツを踊っている。一方で「自分に踊りなんてできたっけ?」と考えながら――。
ふと気づくと、いつの間にか自分が風になって、彼女と一緒に空を飛んでる。眼下に見える景色は初めて見る景色だった。遠くに灯台が明かりを灯し、その向こうには暗い海が広がっていた。