リンコ
「おいっ、悠介。どうした、そんな所で? 帰らないのか?」
突然背後から名前を呼ばれてハッとした悠介は、顔を上げ振り向いた。
「あ、山本先輩……先輩まだいたんですか?」
元気なく言う悠介に、山本は尋ねた。
「ああ、今営業から帰ったところだ。どうした? 何かあったのか?」
「――実は、長尾由紀子さんのことで……」
そこまで言いかけて、悠介は一瞬、言おうかどうしようか迷った。すると、先輩がこう言った。
「あっ、彼女と寝たんだって? どうだった?」
思いがけない質問に悠介は焦った。
「えっ! どうしてそれを?」
なぜ先輩がそれを知っているんだろうと、悠介は不思議に思った。
「あれっ、お前知らないのか? 彼女がお前との夜のことを自慢気にみんなにしゃべってたし、彼女は童貞キラーとして社内ではかなり有名なんだぞ。お前も彼女に男にしてもらったんだろ? だったら感謝しなくちゃな。もし彼女がいなかったらお前、未だに童貞なんじゃないのか? ハハハ」
「えっ、そう……そうなんですか……」
「あ、ついでに教えといてやろう。ここの会社に入って童貞だった男のほとんどは、彼女によって男にされてるんだぞ! 俺も童貞なら良かったなぁー。そしたら彼女の身体を楽しめたのになぁ。クックックッ。お前はラッキーだよ!」
「ラッキー?」
「そうだよ。だから翌日、ラッキーボーイがどんな顔して出て来るか、みんなとっても楽しみにしてたんだぜ。フフッ」
それだけ言うと山本は、さっさと荷物を持って部屋を出て行った。
「じゃあ、あの日。みんなが僕の身体を心配してくれて声を掛けてくれた。そう思っていたのに、そうじゃなかったのか……」
これ以上ないほどに悠介の心は傷つき、痛めつけられた。