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双子魔法使いのお茶会 -翠と碧- + エピローグ

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+ 繋がる出来事、これからの世界 [紅と白、一つ目のエピローグ。]+



燃えて行く街の一部をただ四つの瞳が眺めていた。
これで何度目の光景だろうか。
胸に苦しみを覚えて、白は握っていた拳の力が無意識に強くなる。
するとそっと隣から冷たい温度が伝わってきた。

「痛いでしょ?やめなよ。」

悲しそうな顔をして白の顔を覗き込む。
綺麗な朱色の瞳に見つめられ、白は慌てて我に返って首を縦に振った。
焔を生み出すその冷たい手は、白の手をぎゅっと握る。
昔、白は主から、手の冷たい人は心が温かい、と言う言葉を聴いた事があった。
確かに紅は、優しい。
笑う時もあるし、泣く時もある。
会話がないわけでもないし、白はしっかりとコミュニケーションをとっている。
そう感じていた。
だが、紅はどこか遠くを見ていることがある。
その視線の先に何があるかが分からない。
綺麗な朱色の瞳は何も語らず、何を求めているかさえも掴み取れない。
心配そうな表情を浮かべると、にこりと柔らかい笑顔でなんでもない、と伝えてくる。
その姿が白にとっては痛々しくてたまらなかった。

「本当は世界なんて壊したくないのではないか。」

そう思うことが白にはあった。
ある時、紅が足元の花を踏みつけた時。
兎に角ただ泣いて、謝って、謝り続けていた。
けれども、紅と同じ形をした影たちには、冷徹なまでの接し方をする。
更に握る手は強くなる。
疑問が沸いたままの表情を浮かべていたらしい。
見ると、体全部を白に摺り寄せてくる紅の姿があった。

白は紅に逢って、本来の姿である事が少なくなってきている。
あの姿は気が楽で、世界を見渡せる気がして好きだった。
だが、今の姿になれることを紅が知ってからは、

「ねぇ、どうしてその姿なの?」

と上目遣いで尋ね、白にこの姿になることを懇願する。
初めは一日のうちで数時間。
時間が経過すると、一日中。
今は、数日に一度、それも小一時間のみ本来の姿に戻る程だった。

壊す事に心に負担を感じる事がないはずがない、と白は考えている。

-自分の出来る精一杯の事はやってやりたい…。-

初めて出逢った時から、胸に刻んでいた想いだった。
それでも、時々不安を感じる。

「この姿になれなくなったら?」

紅の心の平安を別の方法で呼ばなければならないが、それがどういうものなのか。
今は分かっていない。
まだ見えぬ別の方法も見つけなければ、と白の心は逸る時がある。
そして、もう一つ。

「もしも本来の姿を忘れたら?」

どこか奥底にある一番の不安。

-君に出逢った時。僕だと分からないかもしれない。-

漠然としたものが、白の中には広がり続けていた。

ぼすん、と白の体にぶつかる音がする。
見ると、紅が抱きついていた。
白が何も答えないで空を眺める時は、何か不安を感じている時だと。
紅は知っていた。
こんな子供っぽい仕草をする人物を、破壊行為をしている人物。
同一人物と思うことが出来ないでいるのが白だった。
だが、確実にそれは同じ人物のしていることだった。
分かっているからこそ、苦しかった。
こんなにも小さな体で全てを受け止め、全てを破壊する。
そこに至るまでの思いの積み重ねは、本人にしかその重みは分からない。
でも、それでも本当に極論的にそこまで至るものなのか。
己の「出来事」として与えられた運命と呼べるようなものを白は悲しみを感じる。

「あの…今日は、戻って良いでしょうか?」

白は恐る恐る聞いてみる。

「…いいよ…疲れたでしょ?」

少し考えて紅は小さく、了承した。
優しく微笑んで、白は本来の姿に戻る。

「送り火を起こすよ」

欠伸を一つして、今日寝る場所を探す為に焔を起こす。
紅はそれを「送り火」と呼んでいた。

月は白く光、街からの煙も闇に溶け込み始めた。
星はきっとその煙に咽ていることだろう。
小さく、ごめんね、と呟く。
今にも消えそうな声と共に、独りと一匹の姿は焔に包まれ、消えた。