双子魔法使いのお茶会 -翠と碧- + エピローグ
5.ある日の夕暮れ
-足りないものを数えても意味がない。
付け足せばいい。
こんな楽な事はない。-
いただきますの挨拶。
君と二人で食べる食事。
何時もの事。
フォークを持っての喧嘩。
スプーンの投げ合い。
肩で息をしながら、時に笑って。
楽しく食事。
「…ん?」
「何…?」
これ、と言って翠は指を刺す。
「これがどうかしたの?」
指の指し示す先には、碧の作ったスープ。
金色の、秋の稲穂を思い起こさせる。
滑らかな黄金のスープ。
「何?」
言葉を発しないで、口にスープを持っていく翠に苛つきながら聴く。
「答えないとわかんないんだけど。」
「僕も、わからない…ちょっとたんま。」
そう言って又スープを口に。
分かった…と小さく呟く。
どんなに重要な事なのかと、ゴクリと喉を鳴らして碧は固唾を呑んで次を待つ。
「うん、そうだよ」
「な、何が…?」
これね、と又金色に指差しして
「塩、入れた?」
「あ…」
塩加減は、料理の中でも最も肝となるもの。
入れ過ぎも、入れなさ過ぎも。
完成、味に直接関わってくる。
それは、この二人の距離に似ている。
何時も一緒にいて。
傍にいて。
同じものを食べて、空を見て、空気を吸って。
喧嘩をして、仲直りをして。
知らない間に喋りだして。
又喧嘩をして。
大嫌いと大声で言って、大好きだと小さく心で呟いて。
入りすぎず、入らなすぎず。
微妙な綱渡り。
ごめん、と碧は謝りそうになった…がその瞬間…、
「…ってぇっ、塩はお前が入れ忘れたんだろう!!」
重要な事に気が付いた。
謝るのは変だ、絶対填められたっ、と碧は憤りを感じる。
「あ、あれ?」
とぼけて見せるが時既に遅し。
本日の調理当番は、翠。
自分の事は棚に上げて、天然的に本当の部分は確信的に他人のせいにするのは天才。
碧は何時もこんな感じで振り回される。
ある日の夕暮れの一幕。
それでも二人は、変わらない。
この世界を構築する欠片は、でこぼこで。
お互いが重なり合って。
一つになる。
作品名:双子魔法使いのお茶会 -翠と碧- + エピローグ 作家名:くぼくろ