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双子魔法使いのお茶会 -翠と碧- + エピローグ

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4.ある日の午後 -翠の独白-



-考えるのは面倒くさいからやめる。
 頭に残っているから、考えるのをやめる。
 思考を止めても、君はそこに居る。-


今日は、蒼と紅に逢って来た。
二人とも相変わらずで、言葉を交わすと楽しい。
傍に居る猫達も。
紅の方は…と言うよりその隣に居る猫が少々苦労しているみたいだが。
蒼の方は自由気ままに過ごしているようだ。
少なくとも、僕はそう感じている。

「よいしょっと…」

見晴らしの良い丘に腰を下ろして、周囲を眺める。
今回で、下と呼ばれる世界に降りてきたのは何度目なのだろうか。
珍しく、僕は考え込む。

以前はそうでもなかった。
上の世界は退屈だけれど。
双眼鏡を持たなくとも、目を瞑って遠くを意識すれば声が聞こえて。
導かれてその空間を覗く事が出来る。
そう、ただ覗いているだけ。
眺めているだけ。
それを、碧は忘れないようにと、紙にまとめているようだが。
僕の頭には全部入っている。
忘れられない過去たち。
時間の流れ。
人々の汗と涙。
そして、笑い声。
焼きついて離れない。

あの二人は、僕たちみたいに一つの魂を分け合ったのではなく。
あくまで一つのものであるかのように、別々に「創られた」。
似ているようで似ていないもの。
違うのは髪の色、瞳の色。

「そして…」

性格。
これは、環境やらその個が持つ性質とやらなのだろうが。

でも不思議だ。
彼らは所謂「無機質もの」から創りだされている筈だ。
なのに「出来事」に必要とは思えない、「性格」「性質」「特性」「特徴」。
一言でまとめて下の言葉で言えば「個性」。
それを持っていた。

触れてみると、楽しい。
僕と碧にも、「個性」とやらが存在するらしい。
余りどの部分を指して個性と呼ぶのか知らないが。
多分碧の個性は、あの怒りっぽい所だろうか。

風が流れる。
これは、蒼が別の場所へ移動した証拠だ。
今度は何処へ行くのだろうか。
何処へ行っても分からないと答える、蒼。
それが面白いのだとこたえる、黒。
黒は白を振り回してきた過去がある、賢い個。
僕の声は、ずっと前から聞こえていたらしい。
ある時、その話をしていたら、蒼が
「そんな傍にいたの?」
と不思議そうに聴いたので、黒は頭の方に響く、と答えていた。
良く分からない、と蒼が首をふると。
黒はニヤニヤしながら蒼の頭の上に口を持って行き、何かを話す。
-あぁ、なるほど。-
それで納得してしまう蒼を見て、僕は大笑いをしたの覚えている。

出来事が完成した、と空の声を聴いて。
眺めていても楽しいのかもしれないが。

-逢ってみたい…。-

そういう衝動に駆られたのは事実だ。
以前からずっと、僕は蒼と紅。
そして、白と黒の猫の姿を見てきた。
全部じゃない。
全部見ているのは、猫達の持つ、あれが記録している。
そう、あれの存在も出来事。
空の気まぐれで作り出した、出来事の一つ。
所詮、空だって全てを見つめて包み込んでいるのに。
それでも尚、楽しみを感じる装置が必要らしい。
全ての世界は装置に囲まれ。
それをただ眺め続ける僕たちさえも、ただの装置。
-装置を弄るのは…誰なんだろう。
 生かされている、と言う事はどういうことなんだろう。-

見守る事だけに不安や不満を感じている碧。
僕はそれを諌めるけれど。
僕に全くないと言うわけでは、多分ないのだと思う。
だから、こうやって頭の中に残ってるんだと思う。

「…なんちゃって」

僕は腰を上げて、お尻に付いた土を両手で払った。
-こんな事を考えるのは、碧の仕事なのに。-
僕は苦笑する。
ちょっと前に碧と喧嘩した時にこんな事を話して、碧をぎゅっと抱きしめて。
碧とずっと話していたからだろうか。
その時に君の思考や感情が。
そして君の温度が、流れ込んできたからなのだろうか。
そろそろ戻らないと、碧の五月蠅い小言が小言でなりかねない。
片付けろと言われた部屋もそのままだ。

北の方向から、焔の匂いがした。
あれは、紅がいるという証。
今は楽しい?と僕が聞くと、充実しているとにっこり笑う紅。
それを静かに見守る猫の白。
白は、紅がいない時僕にポツリと呟いた。
どうしたら紅を救えるのか、と。
僕もそんな方法は知らない。
出来事はそもそも、僕の創り出したものではないし。
そもそも空は、自分の為に僕や出来事や装置を作ったわけだから。
白と黒にも選ぶ権利はあった。
蒼と紅にあったと同様に。
それを選んだのは白なのだから、と僕は意地悪をした。
すると白は一瞬くらい表情を浮かべ、その後にっこりと笑って、そうですねと返答した。
紅は、出来事しての生き方をまっとうしようとしている。
白はそれに、少々痛みを感じているようだった。
それは、紅が白にとても深い愛情を持って接しているからなのだろう。
-異常なまでの、依存…ね。-
僕にはそう取れていた。

「さて…と…」

帰る準備を整える前に、丘の下の御茶屋にでも寄って行こう。
後は、水鳥の為の布団とおもちゃ。
この前、碧の洋服をおもちゃにしていて、僕に雷が落ちた。
どうやら水鳥は、碧に好かれようと必死みたいだ。
尻尾の振る仕草も、僕より必死に振る。
-別に嫌いじゃないのに、ねぇ。-
君に愛敬を振りまくと、きっと食べ物がもらえると思っているのだろう。
碧は僕以上に甘やかす。
瞳で訴えられると根負けしてつい、おやつを与えてしまう。
水鳥は、それを理解していた。
だから、僕と遊んでいても碧の匂いをかぎつけると遊びそっちのけで向かいに行く。
とてもほほえましい風景だと、僕は思う。

色のない世界、と君は口にして時々嘆く。
そんなことはない。
僕も、そして水鳥も。
空気も、空も。
風も、焔も。
囲う白たちも。
僕たちを支えてくれる。
世界には、色がこんなにも溢れているんだ。

「今日は、少し濃い目の紅茶がいいかな?ケーキも有りそうだし。」

僕は地面を蹴って、走り出した。
見えないちょっと先の未来に。

-誰も僕たちのことを知らなくても淋しがる事はない。
僕と君は一つの魂で。
 ずっと傍にいるから。-