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双子魔法使いのお茶会 -翠と碧- + エピローグ

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3.ある日の昼間



-当たり前のことだと決め付けて。
 当たり前の道を進む。
 喧嘩するのも、又日常。-


碧は、自分の部屋からクッションが一つなくなっていることに気が付いた。

-あいつ、又勝手に入ったな!?-

お互いのプライバシーを守る為に、許可なく部屋に入らない。
決まりの殆どない彼らが決めた唯一の決め事だった。
だが、尽く破るのが翠の仕事のようなもの。
その度ごとに碧の雷が落ち、翠はがたがた震えて、時には泣いて謝り続ける。
しばらくの間は大人しくいう事を聞いているが。
喉もと過ぎれば何とやらで、あっという間に決め事を破ってくれる。
-今日と言う今日は絶対に許さない。-
胸の中で燃える熱いものを抱えて、どう折檻してやろうかと思案を巡らせながらドアを叩く。
すると勢い良くドアが開く。

「翠、おま…」

開いたと同時に、碧が口を開こうとすると、必死にそれを塞ごうとする圧力を碧は感じた。
ふがふが、と情けない音を出して訴えようとする碧に、
「しーっ!静かにしろよっ!!」

小声で翠は怒鳴る。
怒られる理由はないと口にしようとすると、手の圧迫は更に強くなる。
余りにも苦しくなったので手首をタップすると、翠はそれに気が付いて。
小さくごめん、と謝る。

「何だよ、一体」

上目遣いで碧を見て、静かに部屋のドアを開ける。
そこには、碧の所有物であるクッションがあった。

「お前、やっぱりっ!!」

大きな声を出して怒鳴る声よりコンマ数秒ずれて、翠は手を出していた。
ばちん、といい音がする。

「ぁわ…」

言葉にならない言葉を発する翠を、碧は刺すような目つきで睨み付けて。
断りもなく翠の部屋へ足を進めた。
自分の部屋と変わりのない間取り。
相違点を挙げるならば、碧の部屋は整理整頓がなされ。
翠の部屋は、何処かの怪獣でも通り過ぎたのではないか、と言う印象を受ける部屋だと言う事。
足の踏み場を探しながら進むと、目の前に自分のクッションがあるのだが…。
その上では、明らかに自分の所有物でないものが、震えていた。

「お前が大きな声を出すから吃驚したんだろう?」

いい子ー、と言いながら翠はクッションから抱えあげた。

言葉を交わさない時間が過ぎる。
クッションの上にいたその子は、随分と落ち着いたのか、翠の胸の中で眠りについていた。
翠は思い切って、この間を砕いてみることにした。

「お前に断りなく部屋に入ったのは悪いと思ってるし。それに勝手にこの子をそれに寝かしつけたのは悪いと思ってるよ。」
「…」

翠の素直に謝る声に反応を見せない碧。

「な、なぁ…でさ。ものは相談なんだけどぉ…」
「駄目だよ」
次にいう言葉を瞬時に導き出した碧は、即答で遮った。

「な…何でだよ!!いいじゃんか!!!」

大きな声を出すなと言っていた翠が、今度は逆に碧よりも大きな声で怒鳴る。
それは懇願。

「な、頼むよ~、良いだろ?この子可愛いしさ、それにさ…」
「可愛くても、駄目なものは駄目だよ。」

翠からその子を奪おうと手を伸ばすと、翠は身を翻してそれを阻止した。
目には大粒の涙が見えている。
嘘泣きは得意な翠だが、今日のはどうやら嘘ではないようだ。
大きく溜息をついて、碧は説き伏せるように言葉を紡ぐ。

「それは決まりごとなんだよ。僕らはあの世界には手を出さない。 何があっても、どんな事があっても。それは、決して破ってはいけない事なんだよ」
「…」

黙り続ける翠に、困り果てる碧は何とかしようともうちょっと簡単に説明しようと試みる。

「いいかい?あのね…」
「…よくない…」
「は?」

想像もしない単語が返ってきて一瞬碧は戸惑った。

「よくないっ。確かに僕らは作られたもので、見守るものだ。でも、でも。こんな小さな命、守れないくらいなら、見ている必要なんてないっ」

もっともらしい、正論。
でも、我侭。
碧と翠には、救えないものが沢山合った。
眺めているだけの時間の流れがあった。
それをさし置いて、それ一つ救う事に何の理由と意味があるのか。
碧は、そう考える。
一つでも多くの、ではなく何故この一つだけなのだろうか…。
何故今なのか、何故この子なのか。
多分、翠自身も分かっていない。

そんな中、碧は翠を説得する姿勢を崩さない。

「分かってるなら、それを元の場所に戻してくるんだ。この子とは、時間の流れも何もかも違うんだから。」

あくまで創られた決まりごとを守ろうとする碧。

「違うのは、時間の流れと、姿かたちと、僕に与えられた力だけだ。
僕が消えたら、新しい僕が作られる、それだけだ。所詮、そんな事しか出来ない存在なんだから」

上への悪態も忘れない翠。

どれ位過ぎたのだろう。
二人はずっとにらみ続けている。
その視線をいつの間にかに、その子も眺めていた。

「…分かったよ」

折れたのは碧だった。
翠は、絶対に折れない。
お腹がすいても、喉が渇いても。
きっとこのままずっと。
延々と碧が首を縦に振るまで、この状態を保つ。
だから、折れるしかなったのだ。
ぱぁ、と翠の顔が明るくなる。

「但し世話は君がする事。僕に押し付けない。それと…クッションは返してね」

と言う言葉も忘れずに付け加えた。
あれだけ頼み込んだのに、結局最後は何時も碧がやっていると言う事が今までだから。
今回は、更に念を込めて碧は伝えた。
何度もうんうん、と翠は頷き晴れた日の日差しよりも明るい表情を見せる。
折角寝ているその子を全力で撫でて、頬を寄せて幸せそうだ。
ついでにキスまでして、相手を吃驚させてしまった。

「あ、そうだ。この子の名前、どうしようか?」
「え?」
「名前だよ、名前。僕らだけにあるのは、卑怯だろ?」
「…ひ、卑怯って…」

やっぱり言葉の使い方が可笑しいと思いながら碧は、必死に考える翠を眺め続けていた。

-せめて、蒼やら紅やら、白やら黒はやめて欲しいな…。-

心の中でそう本音を呟くのを忘れることなく。
昼の時間はゆっくり進んでいく。