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アカツキに散る空花

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「そうか……。まぁその辺りの事は、さすがに草爺から聞いているか」
「え? ホヒ団長は、草爺を知っているんですか?」
「ああ、親衛隊のみんなで何度かお前の屋敷に行った事があって、その時に少しな。赤子のお前を腕に抱いた事もあるんだぞ」
「ぼ、僕を……!?」
 ムラクモはドギマギと顔を赤くして聞き返す。
 ホヒはそんな青年をからかうように微笑んでいた。
「あの方は荒っぽいが面倒見が良くてな。私の同期はどうしようも無い奴等ばかりだったが……みんな良くしてもらった」
 過ぎ去った青春を語るような微笑みを浮かべ、ホヒはしみじみと語った。それは十年以上も前――、「赤空の戦」より以前の遠い昔の出来事。
 そんな彼女の言葉を聞きながら、ムラクモは黙り込んで地面へ目を向けていた。
「……ホヒ団長。僕の父上は――『赤空の戦』で、どのような最期を迎えたんですか?」
「ハバリ様の最期、か」
 彼女は話しにくそうな、微妙な表情を浮かべる。
「英傑親衛隊の私でさえ……あの方には最後まで付いて行く事ができなかった。
 だからその最期はごく一部しか話せない。それでも良いか?」
 ムラクモは強く頷いた。
 真剣な表情で視線を向けてくる彼に、ホヒは困ったように苦笑する。
「そうか……。ならば、話してやろう。……しかしあまり期待するなよ」
 そう言って彼女は目を閉じる。記憶の海を辿って。
 だが思い返せば、その出来事はまるで昨日の事のように――脳裏へ甦るのだった。


 ……――警告音が痛いほど耳を叩いていた。
 天衣が唸りを上げて翼を傾ける。加重緩和装具の働きで、全身に掛かる重圧は気にならない。
 風防の外で視界を埋めるのは――幾百の空鬼。無数の魔弾が飛び交う空は深い森よりも狭苦しく、言霊感応装置から響く音は死の断末魔で溢れ返っている。
 暁航空団一の乗り手と謳われた『天空の才女』、ホヒが乗る天衣が加速する。だがそれでも、英傑ハバリが乗り込む《神守‐参拾八 スサノオ》には追いつけずにいた。
「くっ――」
『ホヒよ! ハバリはワシに任せ、ヌシは指揮を取れ! 団長が撃墜された、航空団が崩れ始めておる!!』
「し、しかし――」
 突如彼女の頭上に現れたのは、通常の天衣より一回り小さな紺青の機体。
 もう一人の英傑ネソクが乗る《神守‐参拾七 ツクヨミ》。その可変翼が折り畳まれ、針のように鋭く速度を上げる。《スサノオ》へあっという間に追いすがる姿が見えた。
『ネソクに従えホヒ! 俺達に付いてくるのは無理だ、まだまだヒヨッコなんだからな! がっはっは!!』
 荒々しい笑い声が聞こえたかと思うと、二機の神栄天衣はさらに加速。あっという間に小さくなっていく。
「く……っ、了解、です……!!」
『それで良いんだ。無理に俺達に付いてこなくてもな!』
 急にハバリの声が優しく響いたかと思うと、突如ホヒの視界の端で赤い光が広がる。
 ハバリ機を中心に、直径五キロ程度の球状空間が出現していた。その中に飲み込まれた魔弾や空鬼が、その区別無く細切れに千切れて破壊されていく。鬼達は抵抗する暇さえ無かった。
 そのあまりに破天荒な力に圧倒され、ホヒは目を見張る。
「こっ、これが……。神栄天衣スサノオの、――力」
 赤い空がハバリ機へ急激に収束していく。
 その周囲を飛んでいたおよそ三百体近い空鬼は全て――その痕跡すら残さずに消え去っていた。
 ホヒはようやく我に返る。そしてすぐに、全機へ向けて口を開いた。
「……ハバリ様のご活躍により、敵の攻勢は一時止まった!! 今から私が指揮を取る! 全機、態勢を整えろ!!」
 叫びに応じて、航空団の天衣達は編隊を組み直し始めた。出撃前は二千機あった航空団の天衣群が、今では半数以下にまで落ち込んでいる。
 そこへすぐに、第二波の空鬼群が飛来する。
「補給が必要な者は撤退! 損傷の少ない者から前衛に布陣! 腕に自信のある者は付いて来い!!」
 そう指示を飛ばすと、すぐにホヒの元へ十数機の天衣が馳せ参じた。それに合流するとホヒは反転、敵第二波へと突撃を掛ける。
 敵進攻速度を少しでも緩めるための、少数精鋭の撹乱作戦。
「五、四、三、……遠距離魔弾、一斉発射!」
 合図に合わせて青い空を駆ける十数発の魔弾。さらにそれを自ら追いかけて加速する天衣達。
 次々に爆炎が空鬼達を押し包むのと同時、近距離実矢弾『石狩』の弾幕を張りながら爆炎の中へ各機が突撃する。
『ッ、オオヤ2被弾……! 中枢動力核停止! ――ああッ!!』
『く、ククノチ1、被弾! ああぁッ、母上――ッ!!』
 敵陣の中で熾烈な反撃に遭い、天衣の数機は炎塊と化して落ちていく。
 それでも無我夢中で敵陣を切り裂き、ホヒ機を筆頭に天衣十機がどうにか敵群を突き抜けた。
 だがしかし、敵第三波がすぐ目前に差し迫っていた。
『こんの――やろぉおおおがああああ!!!』
 ふいに言霊感応装置越しに機内を震わせる、虎のような咆哮。
 直後に敵第三波の群れは、その後方から追いかけてきた赤い空間にほとんど飲み込まれてしまった。
「ッ、ハバリ様……!! 助かりました!!」
 広がり切った赤い空が逆再生でその天衣に収束すると、再びハバリ機は加速した。前進し、飛来する第四波の空鬼群と会敵するなり赤い空間を三たび展開する。
『ハバリ、力を抑えろ! 幾らヌシでもこのままでは――!』
 いつの間にか赤銀の天衣を先導するように、紺青のネソク機が先を飛んでいる。
『ぁ――――アアアアアア――――ッ!!!』
 言霊感応装置の範囲ギリギリから、荒ぶるようなハバリの咆哮が聞こえた。
 ――まるで獣の雄叫び。
 それを耳にしてホヒの全身が粟立っていく。
『敵第二波群の一部、反転! ホヒ三将……ッ! 散開を!!』

 ――そしてホヒは、遠くに見た。
 今までより一際大きく空を侵食していく赤い空間。
 その直後、どこか別方向から赤い空間を輝き穿つ――強烈な閃光を。

『ホヒ三将! ホヒ三将……ッ! くっ、このぉ――!』
 先ほどまで喚き立てていた言霊感応が途切れると同時、ホヒ機が乱気流で揺れる。すぐ側でホヒ機の盾になる形で一機の天衣が爆ぜ――その右翼部分が吹き飛ぶのが見えた。
 ホヒはとっさに、反撃機動を取って空鬼を撃墜する。それからもう一度、視線を戻すが……遠い空に赤銀の天衣は居ないように見えた。
 おもむろに状況画面の下で『言霊』の文字が点灯する。
『……ネソクから全機へ。
 ハバリの全力攻撃により黄泉岩戸は崩壊、亀裂は閉じられた。
 しかし……攻撃の際に降下したスサノオがそのまま岩戸へ激突した事を確認。
 ――――――天野羽張、墜落』


 ……そっと、ホヒはまぶたを開く。
 その視界が捉えたのは空を覆う空鬼達ではなく、人工的な格納庫と顔面蒼白で立つ若い英傑だった。
「私が見たのは、――たったこれだけだ」
「父上は黄泉岩戸に突撃した後……鬼に撃墜されたのですか……?」
 ホヒは質問に答えず、代わりに申し訳なさそうに視線を外した。
「分からないが……私にはそう見えた。だがその捨て身の攻撃によって、私達はハバリ様に救われたんだ。軍だけじゃない、一般市民達も」
「…………」
作品名:アカツキに散る空花 作家名:青井えう