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アカツキに散る空花

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 爆風が近くの雲を吹き飛ばし、空鬼の群れを押し返す。黒い羽と赤鱗を散らして何体かの空鬼を早くも撃墜、霧散させる。
 そこへさらに――ヒヂニ隊四機が押し進んだ。
 後方から戦況を見ていたホヒが、一瞬息を呑む。
『出すぎだぞ、自重しろ!!』
「これぐらい屁でもありません! ……それにコガネ隊も全員、隊長の仇を取りたがってる!!」
『いや、ダメだ!! 突っ込み過ぎるな! お前が乗っているのは天燕なんだぞ!!』
「……天燕で上等ッ!! 俺が岩戸を塞いでやる!!」
 敵先鋒部隊を殲滅すると同時にヒヂニ機は加速した。
 暁航空団を離れて《黄泉岩戸》へ続く空の回廊へ高度を取る。気流も利用した最速最短の飛行路だ。
 だが単機で敵陣へ飛び込むその無茶に、背後でコガネ隊は躊躇ったようだった。
「怖いならお前達は来なくても良い! 航空団と共に進軍しろ!!」
『し、しかし……それではっ』
「脅えるお前達が来ても足手纏いになるだけだ! 離れろ!!」
『りょ、了解です……ッ!』
 コガネ隊三機はヒヂニの追随を諦めて、速度を落とす。
 だがそれを追い越して――五機の機体が空の回廊へ突入した。
『――何をやってる、サクラ隊!!』
「ホヒ団長、ヒヂニを……死なすわけにはいきません」
『ムラクモ様がそう言うのなら、親衛隊の我々が付いて行くのは道理ですので』
『……く、勝手なヤツばかりだ。良いだろう、ヒヂニを援護しに行け!! その代わり一機も落ちるな!!』
「了解ッ!!」
 主翼に桜が描かれた天衣五機が、命令を受けて空の回廊に突入する。気流に乗って急加速する天衣達が、猛烈な速度で空を貫いた。
 前方で爆炎。
 一対七の戦闘を優勢に繰り広げている、ヒヂニ機が五人の視界に入った。
『あんな機動ができるなんて……本当に同じ天衣なのか……?』
 あっという間に一対六、一対五と敵を撃墜した所で――ふいに、ヒヂニ機は敵へ背中を向ける。
『追いかけてきたのか……。なら遠慮なく手伝ってもらうぞ!』
 ヒヂニ機は空鬼五体を振り切るように加速、空の回廊の先へと駆けていく。
 ほぼ同時――五体との交戦距離にサクラ隊が入った。
『したたかな真似をしてくれるわね……ッ!』
 舌打ちしそうな勢いのウズメ。
 とはいえ、五体ぐらいどうという事も無い。サクラ隊四機でこの数以上の敵を相手した事もあるし、今はさらにムラクモまで居た。
「行こう、みんな!!」
『了解ッ!』
 会敵し、交戦から数秒。ヒヂニ機と戦闘していた空鬼達は新たな天衣群の出現に反応が遅れ、早々とムラクモ達に殲滅された。
 最後の一体をムラクモが撃墜すると同時に、五機はさらに空の回廊の先へ加速する。
 だがすぐにまた、ヒヂニの『食べ残し』の空鬼群と会敵した。即座に殲滅戦に入る五機の天衣。
 ……そうして何度も同じような戦闘を繰り返しながら、やがてその先に見えてきたのは――巨岩の大地だった。
 眼下一杯に広がる巨大な一枚岩。上空からでこそ全貌を把握できるが、高度を落とせば地上は岩だけしかみえなくなるだろう。

 そしてその巨岩の中心に、――――深い亀裂はあった。

 膿を出し続けるように、その亀裂の内側から幾十モノ黒い空鬼が断続的に放出されている。
 亀裂の底は闇。
 そしてその闇へ向かって、――たった一機の天衣が降下を掛けていた。
「――ヒヂニッ!!」
 サクラ隊の先頭から加速するムラクモ機。
 亀裂の上空で数十体の空鬼が次々に魔弾を吐いていた。黒いキノコ状の爆炎がその空域を覆い尽くし、数体色付きの姿も見える。その中心でただ一機、ヒヂニ機が凄まじい動きで孤軍奮闘を繰り広げている。
「サクラ隊は遠距離から援護をッ!! 僕はヒヂニを助ける!!」
『む、ムラクモ――!? 無理よ、あんなの自殺行為じゃないッ!』
「ヒヂニを死なせはしない!」
 ウズメの制止を振り切って、黒く蠢く空鬼の群れへ機首を向ける。照準を取る必要も無い。ムラクモは『草薙』を敵の群れの一角へ発射する。
 噴き上がった緑の爆炎が、数体の空鬼を呑み込んで消滅させた。
「ヒヂニ、無事!?」
『要らん世話だッ!!』
「……っ、その機体……まさか」
 ムラクモはすぐに異変に気付いた。
 ヒヂニ機は空鬼達へ全く反撃していない。敵の魔弾をギリギリで回避し、それで後ろや横に居る空鬼を撃墜している。いわば、同士討ちを誘っているのだ。
 神技的な操縦技能。……だが効率は著しく悪い。
 そんな状況をいちいち作り出すより魔弾一発を発射した方がずっと楽に敵を撃墜できるのだ。
「ヒヂニ……天衣の兵装燃料が切れたんじゃっ!?」
『亀裂に打ち込む分ぐらいは残している! それで十分だっ!!』
「無茶だよッ!!」
 ムラクモ機が空鬼の一群へ魔弾を発射。さらに背後からもサクラ隊が遠距離支援攻撃を掛ける。
 それは数十体の空鬼に対するささやかな抵抗に過ぎない。だが、それでも黒い群れは少しだけ揺らぐ。
 その隙を――英傑は逃がさなかった。
『いい加減に諦めろ、鬼どもがぁあああッッ!!』
 群れの中心を強引に離れて、黄泉岩戸の亀裂へ急降下を駆けるヒヂニ機。そして、黒い闇へ突き立てるように巨大魔弾――『花火』を発射する。
 通常の魔弾よりも何倍もの大きさの『花火』が亀裂に吸い込まれ――直後、轟音を響かせて爆ぜた。
 幾層にも重なって、色とりどりの爆炎が地上から噴き上がる。黄泉岩戸の向こうを照らすように、『花火』がその奥で輝いた。
「あれは――……」
 だがその光景を見て、ムラクモは言葉を失う。
 ――亀裂の漆黒全てが、空鬼だった。
 岩に張り付いた空鬼達は、我先に這い出そうともがく。だがそのせいで互いの身体に挟まって出られなくなっていた。
 『花火』はその鬼達を炎で包み上げ、燃え上げながら霧散していく。
 爆発の衝撃が巨岩を震わせ、一部を崩壊させる。出口が埋もれ始め、溢れ出す空鬼達が目に見えて減っていく。
『は……ははは!! やった! これで衝立船戸が来るまで敵を止められ――――』
 だがヒヂニの興奮した声は、ふいに止まった。
 直後、亀裂を塞いだ岩石の一部が勢いよく空へ噴き上がる。
 そして闇の奥から響き渡る、――――咆哮。
『なん――だ、アレは……』
 黄泉岩戸の亀裂の闇に光が灯る。六対の赤光。
 それが岩戸の中で揺れながら、赤く輝きを放っていた。
「早く、離れて……。亀裂から離れるんだヒヂニ!!」
 駆り立てられるようにムラクモが叫ぶ。
 即座に機首を上へ傾けるヒヂニ機。
 だが直後、亀裂の中からおぞましい咆哮が再び空を走った。
『な――――ッッ!!』
 亀裂から空鬼達が一斉に地上へ姿を現す。まるで、何かから逃げるように。
 その群れに、黄金の絵を描いた天衣も飲み込まれた。
「――ヒヂニ、こっちへッ!! こっちへ逃げるんだ!!」
 黒い群れの中へ消えていく天衣をムラクモが呼んだ。
 そんなムラクモの眼前に三体の空鬼が飛び込む。反射的に攻撃機動に移り、苛烈にその三体を攻め立てた。
 だが、その一瞬。
 視界の隅で――黒いキノコ状の爆炎が噴き上がったのが見えた。
 ムラクモは目を見開き、そちらへ視線だけを投げる。
 目に映ったのは収まりゆく爆炎。
作品名:アカツキに散る空花 作家名:青井えう