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アカツキに散る空花

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『……今は話をしている時間は無いけど、せめて思い出して。僕は英傑だという事を。
 僕は選定の儀で《アマテラス》に選ばれた操縦士――。

 英傑――天野叢雲なんだ』



 ――漆黒の鬼達が、空を埋め尽くしていた。
 敵の空鬼は五百から六百。対する航空団は三百から四百が空を舞っている。
 後方から次々に天衣部隊が出撃して合流するが、それとほぼ同数の天衣が火を噴きながら墜ちていく。空鬼の数も減っているが、航空団は圧倒され気味だった。
 紺青の天衣は反転すると同時、後ろから迫っていた空鬼へ花吹雪のような乱矢魔弾を叩き込んだ。『舞桜』数十発を被弾した空鬼の頭部が一瞬で霧散する。
 だが直後――。
『こちらコガネ1!! ひ、ヒヂニ様、魔弾が! 助けて下さいッ!!』
「くっ、コガネ1! 待ってろすぐに――!!」
 ヒヂニはコガネ隊の火消しに奔走していた。
 コガネ隊は次から次に襲来する空鬼達になす術も無く、冷静な連携も取れず逃げ回っている。
 ヒヂニ機は翼を翻し、低空から頭上へ機首を取る。だがその方向から二発の魔弾が飛来していた。とっさに高速旋回、魔弾を振り切ろうと回避機動を取る。
『ひ、ヒヂニ様! アラートが――ッ!!』
「降下加速しろコガネ1ッッ!!!」
 上空へ目をやり、ヒヂニが声の限り叫ぶ。
 しかしコガネ隊長機の天衣は、ほぼ反射的に旋回を掛けた。……斜め上の横方向へ。
 重力に逆らった天衣の速度がわずかに落ちた、直後。
 ――――魔弾が喰らい付いた。
 黒いキノコ状の爆炎が噴き、コガネ隊長機の天衣を背中から貫く。
「コガネ1――ッ!」
 ヒヂニが鬼気迫る表情で叫んだ。
 だがコガネ隊長機は黒煙を噴いて墜落しながら、まだどうにか息があった。両翼の推力噴出孔をメチャクチャに稼動させて姿勢を制御しようとするのが見える。
 しかしその頭上から再び、空鬼が追いすがっていた。
「追撃が来るぞッ! 態勢を立て直せ――ッ!!」
 ヒヂニが声の限りに叫ぶ。それに反応するように錐揉み状態から脱するコガネ隊長機。
 だが直後に空鬼の放った二撃目が高速接近し、――その頭上で爆ぜた。
『うわあああああぁぁぁッッッ!』
 空に噴き上がるキノコ状の爆炎が天衣胴部に直撃。根元から主翼を折り砕き、装甲を貫き、中枢動力核を破壊する。
 空中分解した天衣が、青い輝きを発して爆発した。
「コガネ、1……ッッ!!」
 隊長機を撃墜した空鬼へ、ヒヂニが魔弾を発射する。『葵』に直撃した空鬼が細切れに四散し、爆炎と共に消滅した。
 その真ん中を突っ切りながら、ヒヂニは呆然としていた。後ろを振り返り、落ちていく天衣の鉄片を唖然として見つめる。
『ヒヂニ……! 気を抜くでない!!』
「……父上」
 ヒヂニが視線を巡らすと、少し離れた空で一機の天衣が苛烈に敵を撃墜している。
 緊急事態に際して一時的に現役に復帰したヒヂニの父、ネソクが操る《天燕》だった。
『何をしておるヒヂニ!! 囲まれるぞ、回頭せよ!!』
「っ――」
 そんなネソクの声が聞こえたと同時、反応する間も無く十体近い赤青黄の『色付き』空鬼達が紺青の天衣を取り囲んでいた。
 同時、機内に激しく警報が鳴り響く。
 四方から一斉に飛来する魔弾。我に返ったヒヂニが回避機動を取るが、反応は半瞬遅れる。
「くそっ――空が、狭い!!」
 上昇、直角旋回、急降下加速、旋回。激しい機動で魔弾を振り切っていくが、しかしその間にも新たな魔弾が次々に発射され、《ツクヨミ》に迫っていた。――数が減らない。
 さすがのヒヂニも、絶体絶命だった。
 弾ける爆炎が主翼を掠め、尾翼に牙を立てようと追いすがる。それをギリギリで回避しながらも、魔弾が少しずつ少しずつ、ツクヨミに近付いて爆発していく――。
 だが痺れを切らしたのは敵が先だった。
「なんだとッ!?」
 突如、ヒヂニの機動を塞ぐように青空鬼が正面から飛来した。体当たりするように。
 ヒヂニは目を見開き、硬直する。しかし、そちら以外にもう回避できる空間が無かった。
 息を止めて、ヒヂニは真っ白になった頭で突っ込む――。
 ――――突如、視界に円錐形の青白い爆炎『朝顔』が噴き、空鬼を進路上から弾き飛ばした。
 炎を掻き消すように、ヒヂニがその中心を突っ切る。そのまま旋回すると、後ろから追って来ていた魔弾はあっさり空の彼方へ通り過ぎていった。
「助かった……のか? 一体誰が――」

『全軍へ、こちらアマテラス。作戦空域に到達――これより迎撃を開始する。
 ……遅れてごめんね、みんな』

 それはこの戦場で誰しもが忘れ去っていた、声だった。
 ヒヂニの頭上を橙と黄の大型天衣が抜けていく。太陽の輝きを放つ《アマテラス》が。
「ムラクモ――ッ!?」
 ヒヂニが愕然として目で追った。
 《アマテラス》が魔弾を連続射出する。『草薙』は色付き空鬼達へ着弾すると、緑色の爆炎で一まとめに薙ぎ倒していく。空鬼の色付き部隊は、もう一機の神栄天衣の登場で劣勢に陥っていた。それでもどうにか灰色を中心に編隊を組みなおそうと生き残った空鬼が集結する――。

 ――――その中心を撃ち貫く、一発の高速魔弾。

 灰色の天衣の頭部に高速貫通魔弾『鳳仙花』は穴を空け、その反対側から血肉と爆炎をばら撒いた。
『司令塔らしき灰空鬼に命中です。これで統制が崩れそうですねえ』
『よくやった、副長。殲滅戦へ移行するぞ! サクラ隊全機……突撃ッ!』
 主翼に桜が描かれた四機部隊が、ムラクモに続いて飛来する。散り散りに散開を始めた色付き達を、各個撃破の対象にしていく。
「僕に続け! 暁に近い側から敵を殲滅する!!」
『サクラ1、了解! アマテラスへ続け!』
 小さな英傑の命令に、サクラ隊長ホオリは全く異存なく従う。
 ……出撃前のムラクモの言葉。『自分の指示に従え』という言葉を、しかしホオリは完全に受け入れてはいない。もしもムラクモの下に居る事で不利になるようなら……命令は全て無視するつもりだった。
 ――だが今、その必要は無かった。
 戦場に着いてからのムラクモの判断は、全て適切だったからだ。
『各機、僚機を確認! 別れるぞ!!』
『『了解』』
 サクラ隊が綺麗に二手に分かれ、攻撃態勢に入る。
 目標、前方で散開を始める赤二体と青二体の空鬼。
 たった一体で一部隊と互角の力を持つ「色付き」の空鬼を相手に、サクラ隊は戦力を分散させた上で――戦闘を優勢に繰り広げた。
『……団長!! 《アマテラス》だけではなく、サクラ隊も相当な戦果を挙げています!』
「私も見ていた! ふふ、ホオリめ! 私の知らぬ間にこれほど化けておったとはなッ!!」
 レーダーから色付き空鬼四体の反応があっという間に消失。ムラクモに頼らず修羅場を潜り抜けてきたサクラ隊は、いつの間にか全員が精鋭へと変貌していたのだ。
 そしてその先頭を翔けるのが――橙と黄の神栄天衣だった。
「このまま空鬼群へ突撃する!」
『了解ッ!!』
 《アマテラス》は空鬼達を焼き尽くすように群れに風穴を空けた。
 運悪くその正面にいた空鬼達は、次々に翼をもがれ、頭部を吹き飛ばし、胴体を割って黒い霧に変わりながら四散していった。
 さらにその背後からサクラ隊が続く。
作品名:アカツキに散る空花 作家名:青井えう