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秘密の花園で待つ少年 ~叔母さんとぼくの冒険旅行~

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「ぼく、街中を馬が歩くの、初めて見た!」
「イギリスのニュースでたまに見るわね。馬に乗った警官っぽいのを。あれって衛兵なのかしら」
 衛兵の歩くのに合わせて観光客も移動する。セント・ジェームズ・パークを横目に正確にはバッキンガム宮殿の手前、庁舎だろうか?その中へと入っていった。
 ある程度、堪能した万理おばさんは満足したらしく、バッキンガム宮殿へと移動した。
 やっぱり、交代式が終わった後らしく観光客は多いが疎らになっている。
「宮殿の中は入れないのよね。ほら、あの国旗。今はイギリス国旗だけど、あれが女王紋の国旗が掲げられているときは、女王が滞在中であることを示しているんだって。」
 万理おばさんはカメラを構えながら言った。
 イングランド紋章がはめられた大きな門は固く閉ざされている。観光客はこの檻のような門の外から写真を撮影している。ぼくはその向かいの噴水に興味をもった。
 噴水の中心の像には金色の羽を生えた天使の像が、空に向かって手を伸ばしていた。
「これ、みたことあるよ。」
「そりゃ、そうでしょうね。ほら、この間一緒に映画見たでしょ」
「なんて映画だっけ?」
 万理おばさんとはレンタルショップで映画を一緒に見ている。
「あれよ。『Vフォーベンデッタ』仮面を付けた男の復讐劇。あちこち爆破したり…ほら、ここの通りは仮面を付けた人でいっぱいになったじゃない」
「ああ、あの映画か~。よくわからなかったけど、あのシーンは覚えてる。男も女も子供も同じ仮面をつけて国家元首に抗議する…って、ここの通り?こんなに広くて長いの?!」
 バッキンガム宮殿からミドラルティ・アーチまでセント・ジェームズ・パーク右手側に直線で一キロくらい、この道はとても幅も広い。映画ではここを人で埋め尽くされていたのだ。たぶん、エキストラとかじゃなくてCGなんだろうけど。
 映画の話をしながらミドラルティ・アーチをくぐると目に入ったのは大きなネルソン記念柱と赤い二階建てのダブルデッカーというバスだ。
 多くのバスがここをいき行き交い、そして中心に高くそびえ立つネルソン像のふもとに広がるのがトラファルガー広場だ。
 ホレイショ・ネルソンはアメリカ独立戦争やナポレオン戦争で活躍したイギリスの海軍提督だ。隻腕隻眼の提督はトラファルガー海戦にて戦死、ウエストミンスター寺院にて眠っているらしい。
……もちろん、これは日本へ帰ってから調べた。今は、万理おばさんについて歩き、周りを眺めるだけで精一杯だったのだ。
 記念柱の足元には子供たちが向かいのギリシャ神殿のような建物(ナショナルギャラリーなんだって)をスケッチしていたり、ヘッドフォンを付けたお兄さんとすれ違い、ぼくたちのような観光客がバスを利用している。もちろん、ぼくたち以外外国人だ。
 ぼくがキョロキョロと周りを見つつ歩いている手を、万理おばさんは軽く引き、点滅し始めた横断歩道を渡って路地へと入る。
「そろそろお腹が空いてきたんじゃない?お店に入りましょ。ガイドブックにはたしかこの辺にあるはずなのよ…。」
「レストランを探しているの?」
「んっふふふふふ。レストランじゃないわ。パブよ。それも趣味丸出しの!!」
 万理おばさんが指をさした方向にあったのは花が飾られたテラスのある古い趣のあるパブで、白く大きく“シャーロック・ホームズ”と書かれてあった。
「あああ!イギリスと言ったらパブよ。ドラフトエールにフィッシュアンドチップス。そして、愛すべき変人!!ホームズファン必見!内装もホームズの部屋を模したものなんですって。後で一緒に見に行きましょ~。」
「…万理おばさん、ぼく、未成年だけど…。」
 万理おばさんは興奮の小躍りを止めて、ぼくに肩ごしの一瞥をくれる。そして、前へ向き直り鼻で笑うと造作もないことのように言った。
「観光客なんですもの。ごたごた言わせないわよ。言葉ヨクワカリマセーンってね。」
 何が可笑しいのか、扉の前で高笑いをして見せる。
 早く止めてほしくて、ぼくは何も答えない。何か言えば言うほど調子に乗るからだ。
 目をそらして横を見ると、扉前にメニューが書かれた看板を見つけた。
 当然だが、英語で書かれていてよくわからない。なんとなく読めそうな単語を拾ってみる。
「スープ…今日のスープ?」
「パンとスープの日替わりセットみたいね。んーと、ああ、これもいいんじゃない?サーモンのサンドイッチ。イングランドの人は鱒が好きらしいよ。スモークサーモンが絶品って聞いたわ。」
 ぼくはスープのセット、万理おばさんはサーモンのサンドイッチにフィッシュアンドチップスと昼間からビールを注文することにする。
 万理おばさんが注文している間、テラスのテーブルを選んで待ち、ビール片手に万理おばさんがやってきてしばらくすると、スープとパンが運ばれてきた。
 本日のスープメニューは、野菜たっぷりのトマトスープだったらしい。
「おいしそう!いただきます!」
「はい。どうぞ!」
ぼくはスープにパンを浸しながら食べはじめると、他の料理もどんどんやってきた。
「このスモークサーモン、クリームチーズとレタス、トマトも入って、黒こしょうの入ったマヨネーズっぽいソースがちょっとピリ辛で、とてもおいしー!」
「うわ!魚の天ぷらみたいなの、大きいよ!…これ一人前?フライドポテトも山盛りだぁ!」
「ん!この大きさだし、鱈かしら?味はタンパクだけど衣がおいしい!そうそう、ここではフライドポテトにお酢を掛けて食べるらしいわよ。」
「う~ん…フライドポテトでお腹がいっぱいになった~」
食べ終わった後は、2Fのホームズの部屋を模した展示品などを見学し、それから、これからのことを万理おばさんと話し合う。
「大丈夫?疲れていない?」
「うん。ちょっと。でも椅子に座れたし落ち着いてきたよ。」
「OK!午後はこれから近くのエンバンクメント駅から地下鉄に乗ってタワーヒル駅に行くの。そして、ロンドン塔を見学に行きます…!」
「ロンドン塔ってあの、エリザベス一世も投獄されたっていう刑務所だね」
「大昔は普通に要塞として使われていたけれど、チューダー朝あたりになると貴族や王家の牢屋として使われていたらしいわね。首のないアン・ブーリン王妃が夜な夜な彷徨うそうよ…」
「…首がないのに、何故アン王妃だってわかるの?」
「首がなくても美人はわかるもんなのよ。それと、ここで見られるのはクラウンジュエル展!」
 万理おばさんの目は光った。
「歴代の王が使っていた王冠や王笏がギラギラと!」
「いや、そこはキラキラでしょ。あまり興味がないなあ」
「いいじゃない。目の保養よ。つか、むしろ本物のアンティークジュエルを見聞きできる目を養うのよ!」
 だから興味ないし。
 万理おばさんが二杯目のビールと、ぼくの食後のオレンジジュースを飲み干した後、地下鉄に乗ってタワーヒル駅で降りた。

 地下鉄を降りると、ロンドン塔の観光案内版とお土産の売店が点々と並んでいた。とてもわかりやすい。
 道路を渡らず地下通路を通って地上へ出ると、大きな要塞が目の前に現れた。
「おお!大きい!堅牢って言葉がぴったりだね!」