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秘密の花園で待つ少年 ~叔母さんとぼくの冒険旅行~

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 万理おばさんはつばの大きい帽子に薄いニットカーデガンの下にレースの多いキャミソール、そしてサマーパンツにサンダルを履いている。肩から大きめの鞄をかけている。柔らかくて丈夫な鞄で折りたたんでスーツケースに入れて持ってきたらしい。たくさん買い物をする気だな。
 ぼくはといえば白いTシャツにデニムの短パン。腰にパーカーを括り付けてその下にウエストポーチを後ろ向きにつけている。
 二人で地図を見ながらとりあえず近場の地下鉄駅を探す。
 ぼくたちが滞在しているホテルはヒースロー空港へ向かう直行列車のあるパディントン駅から一駅のベイズウォーター駅の辺りにある。都市の中心から少し離れたところだ。
 ベイズウォーター駅で一枚ずつオイスターカードを買って料金を課金する。ロンドンのスイカみたいなカードだ。意外としっかりした厚めのカードで、改札で軽くタッチするだけで改札を通ることができる。

地下鉄の料金はある程度決まっていて都市の中心であるゾーン1から6へと料金は増し、今はシーズンピークのためちょっと割高になっているみたいだった。ゾーン1を回送するサークルラインという線路を使ってウエストミンスター駅まで乗るのだが、途中、線路入れ替えのための途中停止で車内の電気が消えたり、優先電車を通すために線路の途中で停車したり、日本じゃ考えられない運行の仕方で驚いた。
 これ、時刻表なんてないんだろうな…
 ウエストミンスター駅に着いて、ウェイアウトと書かれた出口表示にしたがって階段を上ると、目の前に大きな川と橋が見えた。
町を横断するテムズ河だ! 河の向こう岸には観覧車が見える。
「万理おばさん。あれ、ロンドン・アイじゃない?」
「そうね。こんなに近いところにあるのね。でも、今日は先にウエストミンスター・アビーを見学するわよ」
「アビー?」
「教会…寺院とかのことかな?ウエストミンスターはおもに王族が埋葬されているんだけど、有名人もニュートンとかディケンズとかシェークスピアとかが埋葬されているみたい。」
「ディケンズって?」
「………オバサン、詩は読まないから知らない。」
 …聞いちゃいけなかったみたいだな。のちにぐぐってみると、シェークスピアは別の教会に埋葬してあり、ここには名前だけ。ディケンズに至っては詩人ではなく小説家のようだ。ぼくでも知っている小説だと…「クリスマスキャロル」とはクリスマスになると絵本とかよく本屋にならんで有名だよね。
「さて、後ろをご覧くださ~い」
 ガイドさんみたいな口調の万理おばさんの言う通りに振り返ると、そこには大きくそびえ立つ時計塔が間近に見えた。
「ビックベン!こんなに近くにあったのか!」
「そう、ウエストミンスター宮殿、国会議事堂よ。ロンドンの象徴的な建造物ね。中に入れるみたいだけどロンドンの風景しかみれないから今回はカットよ」
「ええ!?」
「うっさい。時間が押してるから。そこに立って!はい、ちーず。」
 ぼくはとっさにポーズをとって携帯カメラに目線を向ける。
 万理おばさんの携帯はいまどきのスマートフォンとか薄型のものでなく、カメラ機能に特化した、しかもちょっと古い形のレンズの大きくて厚い携帯電話だ。
 写真画像がよくてとにかく安いものを選んだ結果らしい。
 携帯電話なのに重くないのか聞いてみたら、デジカメと携帯電話の二つを持つことを考えたらとても軽い、とのこと。首からかけるストラップに赤ザクやぷちエヴぁとかぶら下げてたら余計に重いとおもうんだけど…。
 万理おばさんと並んだショットも取り終えて、すぐにウエストミンスター寺院へと移動する。
 古い建物が立ち並ぶ街並みはここが首都の中心なのだとはとても思えなかった。
 ビックベンの横を横切り、すこし開けた場所に出る。その奥に大きな寺院が立っていた。ぼくたちのほかにもたくさんの観光客らしき人たちがいた。
 見学料を支払って大きな扉をくぐる。
 そこは高い天井とさまざまな足音が聞こえるだけの静けさがあった。
 もちろん、会話はだめ、写真撮影も禁止だ。万理おばさんが近くに置かれていた日本語の観光パンフレットと日本語翻訳された音声レコーダーを借りてくれた。パンフレットの順番に通り、番号順に音声ガイドを聞ける仕組みだ。これなら英語のわからないぼくや、英語の苦手な万理おばさんでも大丈夫!
ここからは万理おばさんも別行動だ。万理おばさんはさっさと音声ガイドにしたがって勝手に歩き出す。ぼくが子供で保護対象であることなどまったくお構いなしだ。
 いつだか美術館に無理やり連れて行かれて…たしかエッシャー展だ。いやいや行ったのだったが、白黒の迷路の絵が面白くて夢中になっていたら、やっぱり万理おばさんはさっさと先に進んでいて人込みの中へ。あとで気づいたぼくは、半べそで万理おばさんを探して回った記憶がある。
 やっと見つけたときの万理おばさんはといえば、『美術鑑賞はじっくり自分のペースで見た方がいいでしょ? てか、あんた遅いわね~』と言い、休憩所で一人缶コーヒーを飲んでまったりしていた。こっちは必死で探していたのに…。
 と、過去にそんなこともあったので、こういったことも想定内だ。ぼくも勝手に音声ガイドレコーダー片手にうろうろと歩き始める。
 天井のたかい中央フロア、修道士たちが並んで讃美歌などを歌うためのパイプオルガンの部屋、詩人のコーナー、歴代のイングランド王の棺、棺、棺…ってか棺が多すぎる…。昔の王族って墓を建てないものなのかな?中身が入っているのだと思うと、ちょっと気味が悪い。
 装飾がすごく綺麗なものもあって圧倒されたところもあったけれど、少し飽き始めたころ、外からラッパの軽快な音楽が聞こえてきた。
 しばらくすると、万理おばさんが慌てて駆け寄ってくる。
「鹿朗!やばい、時間になってたわ!」
「は?なにの時間?」
「衛兵交代式よ!本当はバッキンガム宮殿の前で見る予定だったのに、ここ結構広いんだもの…」
「ぼく、まだここのお土産屋さんに言ってない。」
「私は行ったわよ」
「ええ、早っ。も、もうちょっと待ってよ。せめてアイザックニュートンの墓石だけでも見せて!」
「ああ、それは最後の方ね。行きましょ」
 ここで、唯一見たかったもの。映画「ダヴィンチ・コード」のシーンにも使われた、惑星が象られた墓石は順路の最後にあった。
 墓石はとても大きなものだった。英語はわからないけど天体の彫刻はすごい。本当はもっと見たかったけれど、人を待たせているのはどうにも落ち着かない。万理おばさんもそわそわと外を見ている。
まったく大人げない…しかたなくそこを離れて外へと出る。
 衛兵はこの寺院の前の道路で並んでいた。
「あら、まだ移動前なのかしら?てっきりバッキンガム宮殿前でやるんだと思っていた。」
 不思議そうな万理おばさんだったが、ここからバッキンガム宮殿まで十分くらい歩かなくてはならないらしく、それならここで見学してもいいだろう気分になったらしい。
 写真でよくみるイギリスの衛兵が不動の姿勢でおもちゃのように整然と並んでいる。あとから馬に乗った衛兵も加わり揃ったところで掛け声を合図に歩き出した。
「このままバッキンガム宮殿まで着いていきましょ」