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欠如した世界の果てで

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 迷ってから数時間ほど、富士山と反対側に歩いていたが、全く進んでいないような気がするのは…気のせいか?(気のせいであってくれ)
 ったく…、こんなことは漫画の中で起きてりゃいいことで、現実世界で平凡に暮らす中学生へとこんな非情に降りかかるもんじゃねぇっての。
 何か、宝でも出てくんなら、悪くねぇけどな(むしろ幸運)。
 そんなことを思いながら歩いていると、いきなり開けた場所に出た。
 そりゃあ、もう明らかに不自然なタイミングで。
 ずっと木漏れ日の下を歩いていたせいか、突然の直射日光に目が眩む。
 そして、やっと視界が戻ってきて周りを見渡すと、

そこには満天の星空と夜の草原の静寂が待っていた。

「は………!?」
 ついさっきまで空には灼熱の太陽が照っていたのに、そこに広がるのは、雲一つない晴れた星空だった。
さらに、いつの間にか樹海も消え、どこまでも続く草原が代わりに存在している。
辺りは静寂に包まれ、微かに草と草が触れ合う音だけが聴こえ、夏ならば必ずといっていいほど響く虫の声さえない。
 あまりにいきなりの出来事に、思わず足の力が抜けて、地面に尻餅をつく。
鈍痛が走り、これが夢でなく現実であることを証明した。
「嘘だろ……」
 だが、不良がこんなことでビビってるんじゃあしょうもねぇ。
 不良の意地とプライドを杖に立ち上がって、再び辺りを見渡していると、そのうちに落ち着いて考えられるようになってきた。
 最初は不安に押し潰されそうになっていたが、不安なんてものは怒りで遥か彼方へぶっ飛んでいった。
 つーか、怒りという自己暗示をかけた的な。
 腐女子どもにハメられて何にもわからないまま樹海に迷い込んで、蒸し暑い中、汗をダラダラ流しながらさ迷い歩いたってのに、また意味のわかんねぇ場所に出てきて、こりゃもうムカつくだろ!?
「だぁぁぁあマジでウゼェェェェェェエ!!」
 思いっきり叫んだことで少し怒りは晴れたが、状況がわからないことに変わりはない。
 とにかく、この幻想的な世界を打破する方法を考えなければいけない。
 最悪、一生帰れない可能性もあるが、その場合はどうすればいい?
しばらくしたら帰られるとしたら、待つ間に何をしていればいい?
"何か"をしなければ帰れないなら、どうやってその"何か"を探せばいい?
 考えなければいけないことは山ほどあるのに、何一つわかりやしねぇ。
 本格的に焦ってきた時、後ろから草を踏む音が聞こえてきた。
 バッと後ろを向いて身構えるのは、喧嘩で身についたクセだった。
 と、そこには見知った顔の奴がいて、目を見開く。
 勝ち気でいて、どこか淫靡な雰囲気を漂わせた薄い笑み。
学校でしょっちゅう注意される(というか、確実にセン公の奴らに目ぇ付けられた)赤いオールバックの髪。
服こそ違うが、間違いなく俺が好意を抱いている悪友、
「勝…弥……?」

勝弥と瓜二つの人物だった。

「どうかしましたか、迷える子羊よ。それとも、僕のイケメンさに見とれているだけですか」
 だが、目の前にいるこいつは勝弥であって、勝弥でなかった。
 奴にコスプレの趣味はなかったから、こんなゲームに出てくる僧侶のような法衣は着ないし(あいつはゲームやんねーし)、俺に敬語だって使わないし、何より、声の抑揚がない。
「……別に、どうも…してねぇし」
 何でもないように言おうと思っても、声が震える。
 目の前にいるこいつが勝弥ではないなら、どこへいったってんだよ。
 自然と俯いて、熱くなる。
 つぅか…、どれだけ心配してんだ、俺は。
ムカついてたはずなのに、何か好きになって、あの性格だから女で遊ぶくらいこの歳でやってそうなのに、俺も遊ばれてるかもしれないのに、マジで心配して。
馬鹿か、俺は。
蓮斗も好きだと思っていたのに、真っ先に思い浮かんだのは、勝弥。
何か、おかしくねぇか…?
 ―いや、今、この状況でそんなことは関係ねぇ。
 まだ、明るい可能性は数え切れないほどにある。
 先に帰った、もしくは、すぐに帰れる状態に近いとかな。
それとも、元からこの世界には来てねぇのか?
「ん……、君、もう少し顔を見せてくれませんか」
「あ?」
 不意に声がかかり、思考を中断されたことにどこかイラついた声で顔を上げる。
 そして、言い終わるが早いか、なんの遠慮もなくグッと顔を近づけてきた。
「………っ!?」
 違う人物とはいえ、顔は似ているのだから、思わず赤面して息を詰める。
 一方の僧侶は、
「―っ…ユーレオ……!? …じゃ、ないですよね…。すみません、人違いでした」
一瞬、聞き覚えのない名前を口にして取り乱したかと思えば、またすぐに抑揚のない声に戻る。
だが、どうも感情を押し殺しているように感じられた。
「なぁ……、その、ユーレオってのは誰なんだ?」
「なぜ私が貴方に言わなければいけないのですか」
 無遠慮なのはわかっていたが、聞かずにはいられずに思わず口走ると、返事は即答だった。
 まるで氷点下のように冷たい声は、さらに俺の好奇心を掻き立てる。
「遠慮というものがないのでしょうか」
 ギロリ、という効果音が聞こえそうな睨みに、多少はビビる。
 まあ、当然の反応だな。
 だが、この程度で引き下がっては、不良の名が許さねぇ。
 だから、無駄で浅はかな意地が言葉となって出てしまった。
「へぇ、いきなり顔を近づけてきて誰かもわからない奴と間違ったてめぇにも遠慮ってもんがあったのか。俺と間違えたそのユーレオってのは、実は重罪者なんじゃ―」
「重罪者なわけがないだろ!?」
 いきなりの叫び声は、悲鳴にも聞こえた。
敬語でもないし、平常心なんてものは存在しないとでも言うような勢いだ。
 たしかに、少しどころかだいぶ失礼な物言いだったが、まさか、そこまで気に障ることだったとは。
こっちも、迫力やら罪悪感やらに怯む。
「重罪者はあの魔―、……僕ですよ」
 憤りを孕んだ言葉を途中で飲み込み、静かに言った言葉は、もとの抑揚のない声だった。
「頼みます。これ以上、僕の罪を咎めないで下さい。それは神の役目ですから。カッコイイからっていつまでもストーカー的行為はやめてくださいね」
 口元に笑みが戻った。
だが、それは冷酷で、こいつの声によく合っていた。
「…名前は何て言うんだ」
「答える必要はありませんが…、これも神のお導き。私はシュディア。シュディア・ウィルナです。それでは―」
 名前だけ残して、こいつは俺に背を向けて歩きだそうとした。
 が、しかし、
「―ぬぐぁ!?」
草に足を取られたらしく、間抜けな悲鳴と共に地面に倒れ込んだ。
 と、同時に、以外にも軽くしか前を止めていなかったらしく、バサァッと純白の法衣の前が豪快に開けた。
「な……っ」
 カァッと耳まで熱くなるのが、自分でも分かる。
 やっぱり見た目だけでも同じだから(省略)!
「……」
「……」
「……」
 沈黙…というか、こいつはピクリとも動かない。
 どうやら気絶しているらしいが、さすがにこのままにしておくのは少し気が引ける。
 今ので気絶だと、頭を強打した可能性が高いが……、無理に動かすのも、かえって危険だろう。
作品名:欠如した世界の果てで 作家名:アミty