欠如した世界の果てで
2
「ぅ……最悪……」
照り付ける太陽。うるさく鳴く蝉。溶けてぬるい保冷剤。うるさく鳴り響く携帯の電池残量警告音。汗で張り付くTシャツ、髪。
極めつけは、
「ここ……どこだよ…」
富士の樹海で遭難。
俺は、ごくごく平凡な中学三年生[霧島 雄二 (きりしま ゆうじ)]。
まあ、ほんの少し違うのは、男なのに後ろで束ねた長い金髪と、目つきが悪くて不良なことと、何かとピンチが多いことか?
ダチは、いないことはないが、誰がダチで誰がパシリがわかんねぇ状態。
コンビニでひたすら万引きを繰り返し、やって来た警官をぶん殴ったり、学校サボんのは勿論、カツアゲは常識だ。
そんな普通な俺を、何が気に入ったんだか「親友」だなんて言う奴がいる。
そいつの名は[抱義 勝弥 (ほうぎり しょうや)]。
あいつのことを簡単に言うと、変態でナルシストな色男、だ。
本当に変態で、この前なんかいきなり家に来て「帰れない」なんて言うから泊めてやることにしたら、夜中にズカズカと俺の部屋に勝手に入って来やがって、「いやあ、ちょっと俺を抱いてみる?」なんて言い出すと布団に入って来て――でもすぐに静かな寝息を立てて熟睡しだすもんだから、追い出すのもなんか罪悪感に苛まれそうだし後が怖いし……ってなことで、寝返ってどいてくれるのを待ってたら俺もいつの間にか寝てて、起きたら机の上に置き手紙が「サンキュー! お礼の目覚まし時計電池抜きドッキリは気に入ってもらえたかーい?」って遅刻じゃんかオイふざけんじゃねええぇぇぇ!? なことがあって、変態な上に超ウゼェ…と改めて実感するほどだ(説明になっていない気がするが)。
まあ、何だかんだ言っても基本的にいい奴で、特に女子にはだれにでも優しくそれこそ見た目もいいもんだから、これがものすごくモテるわけだ。
だが、それなら俺だって同等かそれ以上にモテている。
ルックスと、喧嘩上等で身につけた身体能力、自分では自覚していないが(自覚したくないが)"つんでれ"というものでモテてる要素らしい。
あと、隣のクラスの[麻我 蓮斗 (まが れんと)]だって引けを取らない。
勝てないのは、男さえも惚れさせてしまうほどの魅力と、淫靡さである。
その淫靡さから、肩組んでるだけでエロい、と腐女子からこの前言われたくらいだ。
そう。勝弥は圧倒的に腐女子にモテる。
俺とセットで。
なぜかというとこれまた奴が実にウザく関わっていて、「雄二クンは初心者の不良って感じで、勝弥サンは熟練の美青年って感じでしょ? ある雨の日に、雨宿りを口実に勝弥サンは自分の家に雄二クンを呼ぶと、いきなりベットに組み敷いて、一から手ほどきしてあげるのよ…! 不良の雄二クンは自分が攻められることに嫌がる素振りを見せるけど、実は抱かれるごとに勝弥サンが好きになっていって、そして……!!(将来の夢はBL作家の腐女子・談)」とかいうことらしい。
しかし、いくら奴が淫靡だからって、なんで俺が攻められなきゃいけねぇんだ!?(突っ込む所がズレているらしいが)
…まあ、俺が奴を好きなのは否定しねぇけど。
だが、そんな一途なもんではなく、蓮斗の奴だって好きだ…が…。
…あァ? ゲイで悪かったな!
ゲイが悪いってだれが言ったよ!?
俺に文句を言うなぁぁあ!!
だが、それほどまでに整っていやがる。あの二人は。
勝弥は赤く染めた長めの髪をオールバックにし、それ以外は特に変わったところもない。
が、纏っているその淫靡な雰囲気と、常に絶やさない薄い笑みで、見る者の心を揺さぶりやがる。
さらに、その行動や仕草に力があることを自覚してやっているのだから、たまったもんじゃねぇ。
蓮斗は変わっていて、白銀の長髪(悪く言えば若白髪)に、なぜか少し裂けた制服を着ている(喧嘩によるものかと)。
浮かべる笑みには自嘲が孕まれ、悲壮が漂う。
モテるわりにはダチが少なく、休み時間などは図書室で一人、分厚い本を読んでいた。
何より引き込まれるのは、憂いを含んだ赤茶色の瞳だ。
あの笑みにこの目で見つめられれば、もう一撃で落ちる。
蓮斗に対して勝弥が言うには、「あいつのミステリアス感は反則だろ。とても想っているけれど、触れたら壊れてしまいそうな儚さに触れることができない……、そんな感じか。友が一人もいないらしいな。過去に何かあったんだろう、気の毒に」だそうだ。
だが、それは間違っている。
あいつが壊れやすいのは合っているが、ダチが一人もいないわけではないし、過去に何かあったのではなく、今、何かあるのだ。
家には昔の写真が置いてあるが、ダチと楽しく笑いあう写真ばかりで一人きりの写真なんかは一枚もねぇ。
そして、今でもダチは俺がいる。
最初、あいつをカツアゲでもしてやろうと近づいたのだが、一円も取ることなく蓮斗の作戦勝ち。
それからも幾度とリベンジしたが、一発も殴ることなく連敗だった。
やがて何度もぶつかるうちに、ライバルという関係が出来上がった。
あとはありがちで、親友になって度々ぶつかるように戯れる(純粋に)ようになる。
何度か蓮斗の家でテレビゲームをするなんていう小学生のような遊び程度なのだが、それはしょうがない気がする。
蓮斗は小学生ぐらいまでしかダチがいなかったんだからな。
俺もテレビゲームをするのは好きだし、何より、蓮斗と競って、一緒にいるということが楽しいから問題はねぇし。
遊んでる時、いつものような陰った笑みじゃなく、純粋に楽しんでいるような明るい笑顔を咲かせることが稀にある。
だんだんとその回数も増えて、明るくなり、魅力もその分だけ上がったように思えた。
赤茶色の瞳は笑って細めた時に暖かく感じられるし、それが俺に向けられていることがマジで嬉しい。
勿論、雰囲気が少し軟らかくなったことで声をかけてくる奴もでてきたらしく、最近はさらに明るくなったように感じられる。
さらに一部では、「雄二クンと蓮斗サマは両思いで、さらに勝弥サンも入ってきて3Pよ…!(将来の夢はBL漫画家の腐女子・談)」とか言われているらしい。
って、またかよぉぉお!?
が、勝手に妄想しているくらいなら、そんなことはどうでもいい(よくないが)。
その腐女子にハメられたことに比べりゃあ何でもねぇ。
ある日、俺は腐女子数人と蓮斗、勝弥と合コン(中学でだから、今思えば明白に不自然なのだが、勝弥と蓮斗という餌に釣られるという、我ながら恥ずかしいことで)に誘われて富士山の方に行ったのだが、そこで事件が起きた。
一体、何がどうなったかはよくわからなかったのだが、富士の樹海に迷い込んでいたのだ。
最初は三人でいたのだが、そのうちに二人がどこかに行きやがって、結局一人でさ迷うことになっちまった。
で、今のこの状況。
「あー、クソッ……! なんでよりによって夏なんだっつーの!」
思わず一人虚しく叫んで、パタパタとTシャツの衿元から風を入れようとしたのだが、効果はあまりねぇ…。
暑いというのもあるが、何よりも、ジメッとした生暖かい不気味さ(さすがは自殺名所…)から逃げようとした行為だったのだが。
作品名:欠如した世界の果てで 作家名:アミty