欠如した世界の果てで
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! マジかよ…何でこんな簡単に誰かを殺せるんだよ!?」
無我夢中で喚き散らし、その場に崩れ落ちた。
目元を拭えば、僧侶の血に混じって涙がつく。
死によって流れる涙など、疾うに涸れたと思っていたのに。
いったい、どこをどう間違えてこうなったのか。
今すぐ時が戻ってくれたら。
無駄な疑問と願いが同時に浮かび上がって、消える。
消えた後には何も残らず、虚が広がった。
だが、すぐに浅はかな憎しみがそれを埋め合わそうとする。
仇は魔王。悪いのは全て魔王。魔王が存在したから。僧侶は魔王に殺された。
こんなことで空いた穴が塞がることはなく、再び虚が訪れる。
心は虚でも、精神は少しでも触れたら爆発してしまいそうなほど不安定に、落ち着かなかった。
「貴様、そんなに辛いか」
「―当たり前だ!!」
足音を響かせて近づき、何の躊躇もなく聞いた魔王をギンと睨みつけ、ほとんど悲鳴のように裏返った声で答える。
仇は俺。悪いのは全て俺。俺が存在したから。僧侶は俺に殺された。
そんなことは理解できていると思ったのに、どこかでは認めたくないと叫んでいた。
「そうか……」
魔王は考える素振りを見せた後、言った。
「貴様、我の手先にならぬか? そうすれば、この僧侶の蘇生を行ってやらぬこともない。どうだ」
それはいわゆる、悪魔との禁断の契約に似ていた。
自分の魂を譲る代わりに、願いを叶えてくれる。
契約した後から魂の重要さに気がついて、自分の欲の深さに後悔する(魂がなければできないかもしれないが)のだ。
そして、勿論この提案は受けるべきではないというぐらい、分かっていた。
魔王の手先となり、自分と同じ人間を何人も傷付け、俺自身も傷を負う。
それが、ついさっき会ったばかりの僧侶一人の命で済むなら、そうするべきだ。
もう、そこまで気は高ぶっていなかった。
だから俺は、こう即答する。
「その提案、受けよう」
どこまでも真っ直ぐに言ったその言葉は、破滅へと真っ直ぐに進んでいくことになる。
結局、最終的に俺は後悔することになるだろう。
それでも今はただ、会ったばかりの名前も知らない赤の他人を救った優越感に浸ってさえいればやがて歯車は勝手に動いてくれる。
そう信じて、言った。
物語は紡がれ始めた。
彼は後に魔軍元帥と呼ばれる存在になり――――
作品名:欠如した世界の果てで 作家名:アミty