「山」 にまつわる小品集 その壱
地獄八景亡者戯 (落語)
えーっ、お忙しい中でのお運び、まことにありがたく存じます。
ただ今より演じます『地獄八景亡者戯』は40年ほど前、桂米朝さんがまだ人間やった頃にですね、えっ? 今はなんやねん? 今は桂米朝さんは『人間国宝』ですさかい、こう床の間に赤い座布団敷いてその上に鎮座されて、ガラスケースに入れられてる・・・なんてことを聞き及んでおりますが・・・
いや、その昔にはほとんど演じられていなかったものを、文献や、小噺でちょこちょこ演じられていた分からひとつの大作にまとめられた、という大変ありがたい演目でございます。
『「山」にまつわる小品』とどうつながんねん、とお思いでしょうが、えっ? みなまでゆうな、わかっとるわい! ですか、ま、そこはお分かりにならない方もいらっしゃるでしょうからかいつまんで申し上げますと・・・
死びとたちが三途の川を渡るとこや、閻魔さまのお裁きを受けるとこ、その中で4人の者、修験者・軽業師・歯医者・医者が地獄行きを言い渡され、熱湯の釜、針の山、人呑鬼をお得意の技でやり過ごす、というお話でございます。
全部演じますと1時間以上かかりますのでその中で関わりのある部分だけ、ということでお許しのほどを。持ち時間も少なくなってまいりました。
あっ、これは私のオリジナルでございます。すべてオリジナルです。お間違いなきようにしていただきとうございます。
パチン(見台を叩く音)
男「ほおう、これが地獄の針の山、ちゅうやつやな。いっぱい針がささ っとおる。この上歩いたら痛いやろなぁ」
3メートルもある鬼の番人が怖い顔で見下ろして
鬼「さあ、さっさと登らんかい」
男「まぁ、そうせっつきなさんな。ところであんさん、腰痛おまっしゃ ろ」
鬼「腰? そういやここでずっと立ちっぱなしで、腰も疲れてきたな」
男「ワテにまかしとくんなはれ。ほれ、そこの山の針、1本抜いて貸し ておくれ」
鬼「何をする気だ」
男「あんさんはそこに横になって・・・ほれ、ここに刺しまっせ・・・ どや、気持ちよろしやろ」
鬼「フム、少し痛みがやわらいだような」
男「ほなら針をもっと、仰山抜いて来て」
そこで針の山の番人の鬼は、針をいっぱい抜いて来て渡します。それを鬼の腰に刺していくんですな。適当に。
それでも鬼は気持ちよくなってまいりました。鬼は大きいしそれに比べ針は小さい。蚊が刺したようなもんでしょうか。
それを見ていた釜茹での番人や人呑鬼やらがワレもワレもと集まって来て、男はそれらを手なずけてしまいます。
しかも針の山が穴だらけの山になってしまいました。
男はいとも簡単に地獄の試練をくぐり抜けた、ちゅうことですわ。
鬼「おぬし、なんの罪でここへ来た」
男「へえ、詐欺師でおます。人騙してお金をまきあげたらその人が自殺 したそうな」
鬼「人をたぶらかすのがうまいのか、どおりで」
男「は(った)り〜はったり」
(客席からの声)ぜんぜんおもろないぞ〜それでもプロか〜
いえ、素人の、はったりでございます。
2011.5.9
作品名:「山」 にまつわる小品集 その壱 作家名:健忘真実