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「山」 にまつわる小品集 その壱

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崇高なる恋情  (GL小説)


 美優はゾウをスケッチしていた。表情や動きをすばやく捉えて描いていく。
 毎週日曜日の午前中は動物園で過ごしている。
 少ない小遣いの中から交通費と入園料を払ってまで通っているのは、純粋に動物が好きなのと、画を描くのが好きなのと。将来はイラストレーターの道に進みたいと思っている。また、動物は触りたいが、見ているだけでも飽きがこない。

 しかし今日は、妙な視線を感じていた。いや、先週からである。時々顔を周囲に向けてみるのだが、それらしい人影が見当たらない。
 帰りがけになにげなく目を向けたゴリラの広場。先々週にスケッチをした『さくら』は希少種のマウンテンゴリラ。さくらは美優に流し眼を送ってきている。なんともいえない色気を感じてゾクッとした。

 天王寺公園の一部が動物園になっている。公園の噴水に急いだ。海斗は手持無沙汰に水が吹き上がるのを見ていた。同じ公立高校の3年生、クラスは別である。美優は美術部、海斗は剣道部に所属している。ほぼ月一で、こうしてデートをしていた。

 ふたりは屋台でたこ焼きを買い、ベンチに座った。竹皮の舟に入ったたこ焼きを膝の上に置き、両手のつまようじで開いて、フーフーと冷ましながら食べていた。

「ひょんでな、アハーッ、しょのしゃくらっちゅうホリラ、アファファ、ひっとうちのこと(ごくん)見てたみたいやねん。スケッチしてる間ズーッとやでェ」
「ふーん、フーッ、フーツ、美優に気があるんちゃうか」
「まっさか〜、・・・けど、妬ける?」
 頬を赤くして横を向いた海斗の顔を、美優は下からのぞきあげた。海斗は目を動かして美優の顔を見た。
「青のり、ぎょうさん付いてるで」
と言って、あいている薬指を美優の唇にあて青のりをとると、自分の口に持っていった。
「ゴリラに妬くもなにもないやろ、そいつオスなんか?」
 美優は唇を舌でなめまわして
「ううん、メス」
「ほんならなおさらや、アホらし」