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「山」 にまつわる小品集 その壱

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 ある日、アジアハイウェイのカイバー峠で、物資を運ぶトラックを急襲した。銃撃戦となった。クレシは恐怖で動けない。アザムは弟を助けて逃げた。
そのことを仲間から咎められた。
「クレシは邪魔なんだよ」
「動けないし、銃も満足に撃てない」
「へたすりゃ俺たち死んでたかもな」
 ムハンマドは結論を下した。
「アザム、クレシを撃て」

 アザムは震えた。しかしリーダーの命令は絶対服従である。仲間たちの視線を受けて、アザムは銃を構えた。クレシは涙を浮かべ、それでも必死に歯を食いしばって兄を見つめた。
 わぁぁ――ダダダダダ ダダダダダ――ぁァ
 叫びながら無我夢中で連射した。早く死んでくれ、と。

 その日からアザムは変わった。ためらいなく人を殺せる。襲撃前には麻薬を服用して気分を高める。自分が死ぬことにも無頓着になる。麻薬を飲むようになってからは殺人が楽しかった。仲間と競い合った。
 正義のためだ、という名目で手柄をいくつもたて、13歳にして少年グループのリーダーとなった。

 テロ組織集団にも敵対関係がある。イスラーム正統派軍の情報を得、物資を奪うべくその基地を襲った。狙う建物の裏は崖である。正面で銃撃戦が展開している間に、山育ちのアザムは銃を肩がけにし、崖を慎重に降りた。
 大量の銃弾と金と、持てるだけの食料を奪って森に向かって駆けた。

「止まれ!」
 背後に声を聞いた、と同時にダダダダダ ダダダダダ
 手に持っていたカバンを取り落とした。足を撃たれ、手を打ち砕かれた感触があったが、そのまま森に入り逃げた。

「撃つな! 弾を無駄に使うな、奴はほっといても死ぬさ」


 腕の肉はとびちり骨が見えている。血は止めようがなかった。足からも血が流れ続けているが動けた。しかし、麻薬の効力が消えてくると、耐え難い痛みが襲ってきた。
 が、意識が朦朧としてくるとその痛みは遠のいた。
 ドサーッ、と地面に倒れた。

   かあちゃん・・・笑顔が悲しげな顔に変わった
   とうちゃん、ぼく・・・
   クレシ・・・目に涙を湛えて見つめている

 アザムが瞼を開くことはもうない。目尻には涙の跡が残っていた。


                      2011.5.18