「山」 にまつわる小品集 その壱
少年兵 (バイオレンス小説)
ウガンダやシエラレオネ、イラン・イラクなど中東の紛争地域には、少年兵が多数存在する。
ユニセフが推定するところおよそ25万人。あるいは35万人ともいわれている。
そんなひとり、アザムに焦点を当ててみた。アザムは架空の村、架空の組織に属する架空の人物であるが、この物語は決して架空ではない、と思う。
パキスタン北西部は、アフガニスタンと連なる山岳地帯である。さらに北へ行くと、K2など8000メートル級のカラコルム山脈が立ちはだかっている。
雪を頂くそういった山を遠くに見て、カジャールという小さな山村があった。住民は30人程度、自給自足の生活をしている。社会の情報はまったく知らない。
ある日、銃を携えた集団が突然やってきた。
大きなテロ組織の本拠が空爆を受けて、散り散りになって逃げてきた5人組だった。生き延びるために、立ち寄った村々から食料やめぼしい物を奪ってきた。組織の再起を誓って。彼らはテロ集団としての生き方しか知らないのである。
カジャール村の人々は武器を持って抵抗した。食べ物を奪われると、どちらにしても生きていけない。
アザムとクレシが山菜の入った籠を持って帰って来た時には、父も母も、村人全員が射殺されていた。
アザムは10歳、クレシは7歳である。
集団のリーダーのムハンマドはふたりを伴って、グジュン山を目指した。解放自由軍という組織の新しい基地である。
そこには、誘拐、拉致された10歳前後の少年少女たちがいた。
少年は兵士に、少女は日常の手伝いや少年たちの性の処理が仕事である。
兄弟はそこで、AK−47(旧ソ連製、1947年式カラシニコフ自動小銃)を与えられ、射撃訓練を受けた。AK−47は軽量で、子供でも取り扱いやすい銃である。またイスラームの、都合よく解釈を変えた教義を教わった。
作品名:「山」 にまつわる小品集 その壱 作家名:健忘真実