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Lv1  (仮)

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「じゃあ、簡単に言うと、大事を仕切る警備機関ってことでいいんだな?」
「ああ。まあ、警備機関とは違って、教会の仕事もしているが」
「で、その聖なんちゃら教会に捕まるとヤバイから、俺を殺そうとしたと」
「そうだ。…やめろよ?」
「いや、安心しろ。俺はそれがどこにあるかも知らないんでね。それと、最後に一つ」
 やはり、おかしい。
 その、聖大賢者協会というのは大事を担当するところのはずだが、まさか、この盗人一人を裁くのが聖大賢者協会だというのだろうか?
たとえ、こいつが連続で殺人を繰り返して何かを盗んでいたとしても、それは警備機関で済むことじゃないのだろうか。
 ということは、
「お前、一人じゃないよな」
これが導き出した答えだ。
 その瞬間、ガラリと印象が変わった。
 まるで何人も殺していそうな、剣呑な雰囲気だ。
 かまわず、続ける。
「集団で行動してんだろ。それも、やり手の奴ばかり集めてあったりす――」
 が、最後まで言えなかった。
 首筋に、鈍い銀の刃が若干食い込んでいたからだ。息をするのも怖い。
 さっきの奴は、目の前で縄に縛られているまま。
当たり前だ。ナイフは没収してある。
かといって、手が伸びたなんていう怪奇も起きていない。
 となると、後ろで殺気を膨らませているのは――
「来てくれたか、デュアル。助かった」
 俺と話していた方が、後ろの奴に声をかける。
「別に貴様を助けたわけではなく、俺らに迷惑がかかるから来ただけだ。エル」
 デュアルと呼ばれた後ろの奴がそれに返事をし、
「ほいほい、今、縄を解くからねー」
瓦礫の裏から、エルと呼ばれた青髪の軽い男が姿を現す。
 エルという男は一瞬で縄を切ると、髪と同じ色の隻眼でこちらを見る。その瞳に映るのは軽々とした表情には合わない、嘲笑。
「あっ、だめじゃんよデュアルー。商品を傷つけちゃ。特に首は」
「む…すまないな。どうすればいい」
 デュアルという奴は俺の首から刃物を離すと、すぐさま羽交い絞めにした。野太い声の通り体つきもがっしりとしていて、力も強い。
 ずっと息を止めていたため、咳き込む。
 動いてもいないのに息切れをしながら思考回路をフル回転させ、やっと今頃、疑問に思った。
(商品って、何だよ……)
 首筋を、血か、冷や汗か、なにかが伝う。
 死のギリギリまで行っていたことを思い出し、吐き気がして、眩暈がする。
 商品、とはどういう意味なのか……うまく考えることができない。
 その間に、三人の話は進んでいた。
「いやぁ、しばらく見せてもらったけど、まさか、あれだけでばれるとは思わなかったよー。今後はもっと気をつけなきゃね」
「その通りだな」
「デュアルはもっと商品を大切にねー」
「……本当にすまない」
「わざわざ北大陸に行って、傷ついてるから売れませーんとか言われたら最悪だからね?」
「だから、どうするんだ。傷が消えるまで俺らが預かってるのか?」
「それは却下ー。何ででしょう? 答えは、そうなるとデュアルの担当になるけど、デュアルはサボって、結局商品を死なせてしまうからーでした」
「む……」
「おいおい、無駄話はその辺にしておけ。……聞こえてるよな? そして、分かるよな? 商品ってのがなにか…」
 自分に話を振られて、顔を上げる。
 目の前にはいやらしい笑みを浮かべた奴がいて。
「おい、聞こえてるかって聞いてんだよ。それとも、ビビッて口が開けねぇのか。え?」
 力が入らない。奴の顔も見たくない。
だが、再び下を向こうとした俺の顔を、顎をつかんで無理矢理に自分の方を向かせる。
「答えられねぇか。なら教えてやる。俺らはプロの人身売買グループだ。今回、北大陸の方から注文があってな。あっちの方には珍しい金髪の奴隷が欲しいんだと。条件は三つで、金髪、男、十六歳くらい、だ。まさか、お前みたいにぴったりな奴が偶然見つかるとは、俺らも運がいいな! つまり、商品ったぁお前のことだ! そして、お前は奴隷として売られるんだよ!!」
 汚く顔を歪めて言い、俺に何の反応もないことを確認すると地面に唾を吐いて離れていった。
(ありえねぇ…、信じらんねぇ…。俺が、奴隷として売られる? 嘘だろ…、俺はなんにもしちゃいねぇのにか…?! 俺は不幸なのか? 何なんだ? 記憶を失って、殺されかけて、今こうやって売られようとしている。意味わかんねぇよ…、ふざけんな…!)
 状況を理解して、怖い、という感情よりも先に、怒りが込み上げてきた。
 が、そこで俺の意識は何かに塗りつぶされ、途切れた。


「おい、デュアル、そいつはもうすぐ大金に変わるんだから、扱いには気をつけろよ」
 今回の仕事は大成功だった。
こんな条件にあった奴なんざ中心街にでもいかねぇと無理だし、その間にも仕事はいくつもあったもんだから、正直、保留にしたまま無かったことにしちまおうと思っていたが、運のいいことに、すぐ見つかった。
このガキには50000000Gもかかっていて、まあ、分けるから全部ったぁいかねぇが、一人分でも十分な値だ。
 考えながら、思わず口元が緩む。
(さぁて、今から長に報告でもすっかなぁ?)
 気分がいいから、たまには完了する前にと思ったが、あいにく通信ができる奴は基地に置いてきちまった。
 なら、後やることは、
「ヴォン、どうするんだ、こいつ」
「ああ、手ぇ後ろで縛って転がしとけ。俺が後で遊んでやる」
「うわ、かわいそうになー、このガキ。ヴォンの遊びって、最悪だからねぇ」
ちょっとばかし、こいつをかわいがってやるか。
「つーか、そいつ起きてんのか? 気絶してんのにやってもおもしろくねぇぞ」
「あー、ううん、気絶してるかも。ま、そうとうショックだったんじゃない?」
「ハッ! なら起きてからでいいぜぇ。俺ぁ優しいからな!」
 あー、だりぃ。あとは何をしてりゃあいいってんだよ。
 そう思いながら、近くの瓦礫に腰を下ろし、エルとデュアルが動いている様子をしばし眺める。
が、それも飽き、これからの仕事について考えようと思ったが、面倒だ。それもやめる。
 今回の分け前を計算しながら欠伸をし、悲鳴が聞こえた。
 とっさに身構え、声の方を見れば、仕事をしていたはずのエルが地面に倒れている。
 そのエルは、血に染まっていた。恐怖に目を見開き、右腕が、無い。
「どうした! 何があった!?」
「ガキ、が……ぁぁぁぁああああッ!!」
 何かを言おうと口を開き、そのまま叫んだかと思うと泡を吹いて倒れた。
「デュアル…デュアルはどうした!?」
 半ばパニックになりながら、もう一人の仲間を探す。
 二度目の悲鳴。
 今度は、こっちにまで鮮血が飛んだ。
何かが、靴に当たり、足元を見る。
そこには、デュアルのだろう目玉が一つ、転がっていて。
頬に生暖かいものを感じ、指で拭うと、血にまみれた肉片がついて。
 今度は悲鳴ではなく、大地を揺るがすような、咆哮。
 何なんだ。何なんだ何なんだ何なんだ、何なんだ!?
 やばい、思考が上手くまとまらねぇ! 何だよ、何が起きてんだぁ!?
 次に俺が見たのは、闇。
 紅蓮の瞳、漆黒に染まった鳥の翼、額から禍々しく伸びる角、輝きさえ不気味な金髪。
 それはまさしく、“堕天使”だった。
作品名:Lv1  (仮) 作家名:アミty