神社寄譚 1-1 藁人形
「なるほど。」
要するに50年以上前の記憶しかないこの稲荷社を移動するのを云いだし難い。
そういうことだったのか、と。
だが、こうなると行なわれる神事の趣旨がガラッと変わる。
勿論、建物解体の清祓い、樹木伐採の清祓いといった神事は
行なうのは間違いないのだが、この手の祓いとなると趣旨が変わる。
遷座(せんざ)の儀と云われる神事を行なうにはそれなりの準備も必要だ。
しかもこのお稲荷さんと云うのがなかなかの曲者で・・。
一般には伏見稲荷が「正一位」と云われる由緒のものであるが
そのほかにも豊川稲荷というものもある。
ともなれば神社云々ではなくお寺さんで扱うものが多い事もある。
しかし神仏習合とか分離とか面倒臭い歴史のせいでどっちがどっちなのか
正直言えば「わからない」ものが多くなっているわけだが。
以前そんなことを宮司に聞いたことがあるが
「立場でモノをいえば伏見稲荷が正等と云えるかも知れないね。
だが、其々各々の人々が信仰心を持った対象に優劣なんてあるのかね。
我々は敢えて神道を受け継ぐものだが、
家に神棚も仏壇もある家では、神も仏も信仰する上では区別ならん、
とする方たちも多いわけさ。」
なるほどね。と思ったものだが。
作品名:神社寄譚 1-1 藁人形 作家名:平岩隆