神社寄譚 1-1 藁人形
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前日に宮司から電話があり当日の予定を聞きながら準備をしていた。
「あぁ・・地鎮祭とは違うんだよ。云ってみればその前の段階でね。」
聴けば長年住み慣れた屋敷を取り壊し、新たに集合住宅を建てるにあたり
庭に植えてある樹木などを一切伐採してしまう。
俗に云う「建物の解体のお祓い」と「樹木伐採のお祓い」だという。
素人ながらに何気に興味を持つわけだが。
用意するものを私に伝えながら宮司は大凡のことを聞かせた。
電話口での様子では先方が云うには「古い建物の解体」が主なもので
伐採する木は何本かすらあまり云わないので規模はどれほどになるかは
解らないが、注連縄など少々多めに用意しておいてくれまいか、と。
翌日軽ワゴン車に祭壇やお供え物を載せて
宮司と共に呼ばれた住所に近づくと
住宅地として知られるこの街の隅っこにも
これほどまでに残っていたのか、と思わせる農地がひろがっていた。
季節も季節だったので、ジャガイモが長い茎を伸ばしに伸ばしている、
そんな光景を横目に見ながら、やがて狭い道を進み
半鐘が見える火の見櫓の立つ用水路の脇を入って、その住所に辿りついた。
現地に着くと還暦過ぎたほどの男が立っていて
宮司の羽織姿を見るにピンと来たらしく笑顔で応対してくれた。
生垣に囲まれた広い庭に入ると軽ワゴンを反転させ駐車するスペースを
示し誘導してくれた。
車を停めると男は施主である「上島です・・よろしくお願いします。」と
挨拶した。と、同時に古びた建物の奥から、初老の如何にもやり手な
施工業者の女性営業マンが現われて会釈した。
「このたびは・・藤和建設の中川です。よろしくおねがいします。」
作品名:神社寄譚 1-1 藁人形 作家名:平岩隆