神無月の饗宴
「たける!」
「おう、やまと、無事やったんか」
「たける、オロチの胴体や、多分心臓やと思う。脈打ってるとこ見つけた」
「おぅ、そやけどシャリバテや、力出ん、もうしんどいわ」
「いったんあの岩山のとこに戻ろ、おにぎりがあったように思う」
「ほんまか、もうしんぼたまらん」
あった! 大皿に盛られたおにぎりが。
両手に持ってむしゃぶりついた。塩が少し効き過ぎていたが、今はおいしい。やかんに入ったお茶もあった。やかんの口から直接飲む。なぜそのようなものが用意されているのかを考えることもなく。
やっと一息ついた。
「しゃけか たらこ入りのおにぎりはないんかいな」
「なに罰当たりなことゆうてんの、おにぎりにありつけただけ上等や」
「そやけどなんでオレらが闘わなあかん? ちょっとぐらい注文つけてもええやんけ」
「ほんなら、かつおぶしのんが欲しい、醤油付けといてや、って誰が聞いてくれるんや」
「ほれほれ、また来よったで」
「たける、うちがあいつら引き付けてるから、走って胴体に剣突き立てて来て」
「逆やろ、あいつら引き付けてるには敏捷性がいるんや。やまとがつかまってるうちに要領を得た。やまとが走れ! 時間かかってもええ。その間ずっと相手になっとくさかい」
「分かった。危ななったら逃げてや」
私は健と固く握手し視線を交わした。体がふれあうなんて何年ぶりやろ、視線を合わせるのは何カ月ぶりやろ、と思った。
私は見つからないように、山の裾や木の陰に入って移動した。
健は落ちていた弓矢を拾い上げ、再び額を狙って撃ち始めたようである。
私は走った。あの山に向かって。波打つ胴体、そよぐ草原。
もう少しのところで振り返ると、1つの頭がこっちに向いた。向かって来る。急いだ。胴体には杉、ヒノキが生えていて、苔むしている。またまたこの靴が役立っているようだ。木の枝に手をかけて攀じ登った。
刃を下に両手で剣の柄を握り、目の高さからおもいっきりそこへ突き立てた。深く深く・・・そして手前にそのまま引き寄せる。抉る。全身を使って抉る。
再び振り返った。オロチの頭が上下左右ぶつかりあいながら、空高く伸び上がったかと思うと地面に叩きつけられたかのようになって、のた打ちまわっていた。
やがて動かなくなったのを確信して、剣を引き抜いた。
その瞬間切り口から噴き上がり、それらが舞い落ちてきたのである。私は力尽き、そこにあった岩にもたれて坐り込んだ。ばらけた髪が顔をおおっていた。
おびただしい数のヘビやカエル、ミミズ、トカゲ、ムカデ、ヤスデといった生き物が空から落ちてきているのである。大きな岩にもたれて坐り込んでいる私の上にも容赦なく降りかかってくる。それでも、もう動くことはおろか手を動かす気力もない。いつもなら見かけただけでも大騒ぎしているというのに。
おぞましい生き物が私の頭に、からだに、足の上に落ちてきて、もぞもぞと動きまわっているのだ。