ダヴィンチコード イン ジャパン
木村は、「行かなくていいよ。」と簡単に言った。そのもくもくとした煙を過ぎたあたりに、
目指す温泉はあった。車が進むと木造の古い建物の前に出る。
入口に藤七温泉とあった。
桃子が、「頂上の温泉はここよ、駐車場に車を入れて。」と言うと、
木村はその言葉に従い、車を駐車場に入れる。二人は車を降り、洗面道具を持ち建物の中に
向かった。
桃子はさっき木村から借りた大きなタオルを持っている。入口に行くと中年の男性が、
「入浴料は一人600円です、露天風呂は右側にあります。」と言った。
木村は無言で1,200円を財布から出して支払った。
するとその中年男性は、コピーで作ったような入浴券と書かれた紙を二人に渡した。
二人はその紙を持って建物の右側に進んだ。
入口の籠にその入浴券を入れて脱衣所に向かう。脱衣所は男女別々になっていて、木村は右
に桃子は左に進んだ。木村は脱衣所で着替え、建物の中にある風呂で少し温まった後、腰に小
さなタオルを巻いて建物の外に出た。
桃子は建物の外で待っていた。体全体に木村から借りた大きなタオルを巻いて立っている。
桃子が、「あなたこっちに来て、あっちの温泉に行ってみましょう。」と先にある温泉を指差
した。ここは
10
個ほどの温泉が点在していて、その一つ一つが砂の中から湧き出している。
その湧き出している温泉の周りに、木で枠を作ったという、まさしく自然の温泉であった。
木村は桃子の近くにより、「こんな温泉、始めて見た。やはり東北はスケールが違うな。」と
言うと、
桃子が自慢げに、「だから日本一だって言ったじゃない。」と言った。
木村が周りを見渡すと、男性は2・3人であと女性であった。
二人は桃子が指差した温泉に行った。
その温泉に入ると下は砂地で、時おり熱いお湯がどこからか沸いてきた。
木村が、「桃子ここは最高だ、僕は八幡平が大好きになった。」と言うと、
桃子は満足げな顔でその話を聞いていた。
木村がその温泉に浸り空の昇る湯煙を見上げると、
そこにはまたキリストの姿があった。そしてその湯煙を見ていると、だんだん下北半島の形
に変わってくる。
木村には、まだその時その意味が理解できなかった。
木村は目と閉じ、再び何かが起こる予感を感じていた。そしてそのことは自分の心の中にし
まい、桃子には話さなかった。
二人は藤七温泉を出て、松尾八幡平インターチェンジから東北道に入り、東京に向かって走
り出す。
桃子の提案で仙台に一泊したのち、東京の木村の自宅に戻った。
木村の発見
8月
21
日 午後5時
二人は仙台を昼頃出て、常磐道経由で東京に戻る。三郷の料金所を過ぎ、首都高速に向かった。
木村が、「もうすぐだ、道が混んでなくてよかった。」と言うと、桃子も、「うん、」とうなず
いた。首都高速を湾岸線の方に向かい、そこから品川を目指す。
桃子は相変わらずI・POTで音楽に聴き入っていた。
木村はカーステレオでモーツアルトを聞きながら、黙って運転に励んだ。お台場を過ぎ、ま
っすぐ海底トンネルに入る。トンネルを出ると大井の出口に来た。
大井の出口から品川はすぐそばである。
木村は、「やっと、着いた。」と言い、首都高速を出た。それから品川駅近くの木村のマンシ
ョンに向かう。マンションに着くと地下駐車場に車を止め、
10
階の木村の部屋に向かった。
桃子が I・POTを外し、「やっと帰って来たわね。」と小声で言い、
木村に、「お疲れ様でした。」と言った。
部屋に入ると桃子が、「あなた、コーヒーでも入れましょうか。」と聞いた。
木村は、「そうだな。」と答えた。
桃子が湯を沸かし、コーヒーを入れ始める。
木村はテレビをつけ、ソファーに寝転がった。
桃子が来て、「あなたいつもお行儀が悪いのだから、」と言うと、
木村はごそごそと起き上がり、もう一度ソファーに座り直した。
桃子は木村の前で、コーヒーをいつものマグカップに注ぐ。
それから自分のカップにも注ぎ、「八幡平の温泉はいいでしょう。」と同意を求めるように言
った。
木村は温泉の湯煙がキリストに見えたことと、その煙が下北半島の形に変わっていったこと
が頭から離れない。
桃子が、「あなた、食事はどうしましょうか。」と聞くと、
木村は、「面倒だから、ピザか鮨でも取ろう。」と言った。
桃子は一瞬考えて、「ピザにしましょう。」と言った。
木村は、「分かった。」と言い、ピザ屋のチラシをテーブルの下から取り出す。
そして桃子に、「ミックスのラージサイズとオリエンタルサラダでいいか。」と聞くと、
桃子は、「私はあまり食べないから、ミディアムサイズで十分よ。」と答えた。
木村はチラシの裏を見て電話番号を探そうとする。
そのとき木村は、びっくりする。
チラシの裏にはモナリザトランププレゼントとあり、
大きなモナリザの写真が印刷してあった。
そしてモナリザの頭の右上に、八幡平で見た湯煙と同じ下北半島の形があった。
木村は桃子を呼びそのチラシを見せて、
モナリザの頭の右上を指差し、「桃子、ここに下北半島の形が見えるか、」と尋ねると、
桃子はしばらくその写真を睨んだ後で、
「そう、確かに下北半島の形だわ、これがどうかしたの。」と尋ねた。
木村は、「僕にもよく分からないのだが、何か大きな意味がありそうな気がする。」と答えた。
木村はモナリザの写真の下にある番号に電話をかけ、ピザとサラダを注文した。
30
分ほどするとピザが届く。桃子がお金を払い、ピザとサラダを持って来た。
桃子が、「あなた、ビール飲む。」と聞くと、木村は、「飲む、飲む。」と答えた。
桃子がピザ・サラダと缶ビール・グラスを持ってやってくる。
そして、「これが付いていたわ。」と言って、
片側にモナリザの写真、もう片側にクラブ6が印刷してある、トランプのようなものを差し
出した。
木村は、「クラブ6か、これにも何か意味があるのかな。」と言って、
そのトランプを手に取りしげしげと眺めた。そしてモナリザの写真を見ながら、「はやり、
下北半島だ。」とつぶやいた。
二人はビールで乾杯し、ピザを食べ始めた。
木村はピザを食べながら、「モナリザはレオナルド・ダヴィンチの作だろう。」そしてモナリ
ザの写真を指差しながら、「ダヴィンチが下北半島に関する何かを知っていた、と言うことじ
ゃないか。」と言った。
桃子は話が難し過ぎてよく分からないようで、きょとん、とした顔をして話を聞いていた。
木村はビールを一口飲みサラダをつまみながら、「ダヴィンチは
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世紀の人間で、キリスト
の時代とは随分離れている。」、「このことをどう考えたらいいのだろう。」と自問した。
作品名:ダヴィンチコード イン ジャパン 作家名:HIRO サイトー