ダヴィンチコード イン ジャパン
「奇妙な感覚だ。」、
「自分に何かが起こっているようだ。」、
と捲くし立てた。
桃子はあまりに突飛な話だったので理解ができず、
「私は何も見ていない。」と答えた。
木村が、「桃子だけには少しでも理解して欲しい。」と言うと、
桃子は、「私はいつもあなたと一緒よ。」と暖かい口調で言った。
木村はビールを一気に飲み干して、「桃子どう思う。僕は何かおかしくなってしまったのか
な。」と聞くと、桃子は、「そんなことはないわ、この際は徹底的に理由を探したらいいわ、
私は影から応援します。」と言って、木村のワイングラスに岩手産の赤ワインを注ぎ始めた。
木村は、「桃子ありがとう。」と言ってから、山菜の天麩羅に手をつけながら、「東京に戻ったら、
まず竹内古文書について調べようと思う。どこの図書館へ行ったらいいかな。」と悩んだよう
な顔をすると、
桃子が、「国会図書館がいいわ。歴史を調べるときは国会図書館が一番いい。私もデザイン
の歴史何度も調べに行ったことがある。」とあいづちを打ちながら言った。
木村が、「あの議事堂の隣にある図書館か。」と尋ねると、
桃子は、「そう、そう。」と答えた。
木村は一口大にカットされた岩手牛のステーキを口に入れ、ワインを飲みながら、「あそこ
は電子化が進んでいるらしい、インターネットで調べられれば今日から始めよう。」
と言うと、
桃子が、「そうあせらず、今日はゆっくり温泉に入り東京に帰ってから始めればいいわ。」
と言った。
木村は八幡平の温泉の話をしようとするが、キリストのことが頭から離れない。そして、
「924号室もなんとなく、キリストに似ている。
露天風呂で空に向かって昇って行く湯煙を見ていたら、やはり天に昇って行くキリストの姿
に見えた。」と言った。
桃子はくすくす笑いながら、「私も手伝うから徹底的に調べましょう。」と答えた。
桃子が、「あなた、ご飯食べる。」と聞くと、
木村は、「もう少しワインを飲んでからにする。」と答えた。
桃子は、「私は日本酒とご飯を一緒に食べるのが好きなの。」と言って、お鉢から茶碗にご飯
をよそいながら、地酒を飲んだ。
そして蟹の味噌汁とご飯を口に運びながら、「あなた、さっきエルサレムに行くって言って
いたけれどいつから行くつもりなの。」と聞いた。
木村は、「東京に戻ったら、会社に休暇届を出し早速行ってみようと思っている。」と答えた。
桃子は、「大きな会社はうらやましいな。」と言い、「エルサレムは危ないみたいなので気を
付けてね。」と言いたした。
木村は、「分かった、気を付けて行ってくる。」と返事をした。
桃子が、「そろそろご飯食べる。」と聞くと、
木村は、「そうだな。」と答えた。
桃子はご飯を木村の茶碗によそいながら、「味噌汁が冷めちゃったのでかえてもらう。」
と聞くと、
木村は、「いいよ、冷めた蟹もまた美味しい。」と笑いながら言った。
二人は食事を済ませ、再び露天風呂に向かう。
風呂から上げるとその夜は二人仲良く寄り添って休んだ。
8月
19
日 午前8時
昨日とはうって変わって快晴の日だった。
部屋の電話がなる。
桃子が眠気眼で電話を取ると、部屋係りの加奈子が、「食事の用意が出来ております。昨日
と同じレストランです。」と連絡してきた。
桃子は、「分かりました。」と言い、
木村に、「食事が出来ているので、行きましょう。」と促すように言った。
木村は、「分かった。」と言って、起きようとするがぐずぐずしていて、なかなか起きてこない。
桃子が、「あなた、私先に行くから。」と大きな声を出すと、
木村は、「分かった、分かった。」と繰り返し、桃子について部屋を出て行く。
10
階のレストランに行くと、朝食が用意してあった。
魚の干物・たまご焼き・ハムサラダ・温泉たまご・納豆に味噌汁とご飯という、どこにもある
お決まりの朝食であった。
二人は席に着き朝食を食べ始める。
桃子が、「今日は天気がいいので、八幡平の頂上に行って見ましょう。」、「頂上の近くに露天
の温泉があるの。混浴だけど行って見ましょう。」と言うと、
木村は早く東京に帰りたかったがここは桃子を立てて、
「分かった、行きましょう。」と答えた。
桃子が、「混浴の温泉では私を守ってね。」と言った。
二人は食事を終え、部屋に戻った。
桃子は何か楽しそうな表情をしている。
桃子が突然思い出したように、「あなた、大きなタオル持っている。」と聞いた。
木村が、「かなり大きなのがひとつある。」と答えると、
桃子は、「それを頂上の温泉で使いますから貸してください。」と言った。
木村はその意味が良くわからなかったが、「いいよ。」と言って、大きなタオルをバッグから
出して桃子に渡した。
桃子はそれを受け取り、「これなら大丈夫ね。」と言って、自分のバッグにしまった。
そして、「あなた、行きましょう。」と言い部屋を出ようとする。
木村が、「桃子忘れ物はないか。」と聞くと、
桃子は、「大丈夫。」と答えた。
二人はエレベーターで1階に降り、チェックアウトカウンターに向かった。
チェックアウトを済ませると、
加奈子が来て、「お車を正面口に持ってきますので少しここで待っていてください。」と言っ
た。二人はソファーに座り車を待つ。
しばらくすると、中年男性の駐車場係りが車のキーを持ってやって来た。
木村にキーを渡し、「お車は正面口に止めてあります。」と言って、木村と桃子のバッグを持
って正面口に向かった。
駐車場係りは車にバッグを乗せると、深々と頭を下げ加奈子と共に二人を見送った。二人は
車に乗り込み、軽く会釈しホテルを出る。
前の県道に出ると地熱発電所
10kmと書いてる。
木村が、「ほんとに地熱発電所があるのだね。」と言うと、桃子が、「私は嘘を申しません。」と
答えた。
車はだんだん急カーブの山道に入っていく。地熱発電所を通り過ぎたあたりに、松川温泉と
書いてある看板があった。
木村が、「桃子、松川温泉はここか、ポスターを品川駅で見たことがある。」と言うと、
桃子が、「ここもいい温泉だけど、頂上にもっといい温泉があるの。」と答えた。
木村はその言葉に促されるように頂上を目指す。突き当たりを左に曲がり、八幡平の表示の
ある方に進むと更に道が急になった。急な坂道を一気に昇って行くと、視界が開けてきた。
木村は、「ここはいい眺めだ、僕も八幡平が好きになりそうだ。」と言うと、
桃子は、「うん、うん。」とうなずいていた。随分高いところに来たあたりに、もくもくと煙
が上がっているところがあった。
木村は、「桃子ここは何。」と聞くと、
桃子は、「たぶんここは源泉よ。行ってみる。」と答えた。
作品名:ダヴィンチコード イン ジャパン 作家名:HIRO サイトー