ダヴィンチコード イン ジャパン
ません。またぜひお越しください。」と愛想よく言い、木村に駐車場のカードを渡した。
木村は、「ありがとう。」と会釈して言い、カードを受け取り桃子と共に駐車場に向かった。
駐車場は4階建でホテルのとなりにあった。
木村と桃子は、木村が昨夜車を止めた2階へエレベーターで上がる。
桃子が、「あなた今日は雨が降りそうね、傘はある。」と聞くと、
木村は、「もし雨が降ったらどこかで傘を買えばいい。」と言って、その話を聞き流した。
桃子も特に何も言わず二人で車に向かった。
車に乗り込むと木村が、「唐突に、変な天気だな、本当に雨が降りそうだ。」とぼそっと言った。
木村は車のエンジンをかけ、無言で1階の出口に行く。駐車券を機械に入れ駐車場を出た。
前の道を左に曲がり、廿三日町の交差点を右に曲がって国道に出る。
木村は勘を働かせへ八戸インターに行こうとするが、どこで道を間違えてしまい国道454
号線に出てしまった。
桃子が、「どこか道が違うみたいね、だからナビを買いましょうって言ったのよ。」と言うと、
木村は、「まあいい、方向は間違っていないからいつかは恐山に着くよ。」と言い返した。
桃子が、「あなたは、アナログ人間だからいやになっちゃうわ。」と言うと、
木村は無言でその言葉を無視した。
木村は何かに引き寄せられるようにただひたすら454号線を進む。
桃子は自分で持ってきた矢野明子のCDをカーステレオに入れ、一緒に歌を口ずさんでいた。
1時間ほど走ると、新郷村と言う小さな村に来た。
木村が道路標識を見ると、その上にキリストの墓5km先と書いてあった。
木村が、「桃子見てみろよ、キリストの墓あるって書いてある。知っているか。」と聞くと、
桃子はさめた感じで、「子供の頃行ったことがある。地元ではまやかしだってうわさよ。」
と答えた。
木村は、「桃子行ってみよう、僕もキリストの墓が見たい。」と言うと、
桃子はさめた感じで、「分かりました、行って見ましょう。」と答えた。
木村は車のスピードを落として454号線を進む。
道の左側にキリストの墓500m先と書いてあり、みやげ物屋のような店があった。
その前では老婆が、「こっちへ来い、」と手招きしていた。
車はその店の前をゆっくり通り過ぎ、キリストの墓の入口に来る。
桃子はあまり興味がないようで、カーステレオの音に聴き入っていた。
木村は車を入口の駐車場に止め、「桃子行こう。」と言う。
桃子は、「分かりました。」と言って車を降りようとするが、その前にバッグからI・POT
を取り出し、ヘッドホーンを付けて車を降りた。
木村は車を降り、ドアロックをかける。
桃子が音楽に聴き入っていたので、話かけることもなく二人でキリストの墓に向かった。
道は坂になっている。
坂を上っていくと突き当たりで折り返し、またその上につながっていた。
そして坂が終わると広場に出た。
広場の右側に小山があり、その小山の上に木の十字架が二本向かい合わせに立っている。
十字架を見た木村は、「あっあー。」と大声を上げた。
桃子はその声に気付かず音楽に聴き入っていた。
木村は桃子を置いて走り出す。
木村が小山の下に来ると、二本の向かい合わせの十字架の真ん中に、
キリストが右手の人差し指を天に向けて立っていた。
木村はその姿に感動し、無意識に十字を切っている。
桃子には何も見えないようで、ゆっくり木村に近づいて来て、「どうしたの。」と聞いた。
木村はとっさに桃子に話しても理解されないように思い、「ちょっと、両親のことを思い出
した。」と答えた。
木村が再び十字架を見上げると、
キリストは人差し指を上に向けたまま、天に召されて行った。
木村は感動で涙が止まらなくなった。
そして木村が天を見上げると、
そこにはゴルゴダの丘の情景が広がっていた。
そのとき木村はエルサレムに行くことを決意する。
桃子は木村が両親のことを思い出して涙を流しているのだと思い、一歩下がり邪魔をしない
ように遠くから木村の姿を眺めていた。
木村は感動で動くことができない。
しばらく、その場に多々ずみ、二つの十字架を眺めていた。
木村の頭の中に、両親との思い出が甦ってきた。
小学生のとき、父親とキャッチボールをした思い出、
家族でディズニーランドに行ったときの思い出、
母親がアイスクリームを買って楽しそうな顔でこっちへ歩いてくる姿、
父親が遅く帰って来て、母親とけんかをしている怒鳴り声、
大学に合格したときの両親の喜ぶ姿、
両親との思い出が走馬灯のように甦って来た。
そして木村は今まで経験したことのない、不思議な感覚にとらわれていた。
15
分ほど立ってから、木村は我に戻り桃子を探した。
桃子は一歩さがり暖かく木村を眺めていた。
木村は桃子の近くに駆け寄り、「桃子何か見たか。」と聞くと、
桃子は、「いいえ、何も変わったことはなかったわ。」、
「あなた、両親のことを思い出したのね。」と言った。
木村はその言葉に、「うん、うん、」とうなずいていた。
キリストの墓の先には伝承館があり、墓の歴史を知ることができた。
木村と桃子は伝承館に行く。
入口を入ると、「この地に多い、戸来(ヘライ)と言う名前や地名はヘブライに由来する。」
とあった。
木村は、「桃子、戸来(ヘライ)と言う名前は多いのか。」と尋ねると、
桃子は、「ええ、多いわ。確かこのへんに戸来岳という山をある。」と答えた。
木村はそれを聞き、「昔キリストがここに来たのだ。」と思った。
伝承館にはキリストの遺言もあった。
木村は桃子に、「この遺言は本物かな。」と尋ねると、
桃子はちょっと冷めた表情で、「地元の人はまやかしだという人が多いわ。」と言った。
木村も、「遺言まであるというのは少しおかしいかもしれない。」と思ったが、先ほどのキリ
ストの姿はとても嘘とは思えなかった。
伝承館の中には、「竹内家という旧家に伝わった竹内古文書というものがあり、昭和
10
年に
その古文書が発見されてから、キリストの真実の姿が明らかになった。」とあった。
木村が桃子に、「竹内古文書を調べればキリストのことが分かりそうだ。」と言うと、
桃子はあまり興味のなさそうな顔で、「そうね。」と答えた。
木村は、「エルサレム行きとともに、竹内古文書の調査。」も決意する。
そして桃子に、「早く東京へ帰りたい、エルサレムへ行ってキリストのことを調べたい。」
と言うと、
桃子が怒った表情で、「恐山はどうするの、これから行くんじゃなかったの。」と言うと、
木村は申し訳なさそうに、「恐山はもういい、八幡平の温泉に寄って東京へ帰ろう。」と言っ
て桃子の顔を見上げる。
桃子は温泉の話が出たので機嫌を直し、「それなら、そうしましょう。」と答えた。
作品名:ダヴィンチコード イン ジャパン 作家名:HIRO サイトー