ダヴィンチコード イン ジャパン
木村は、「分かりました、ありがとうございます。」と言って電話を切った。
そしてナターシャにそのことを伝え、9月
17
日より日本に行くことを決定した。
その後、木村はレフチェンコに電話をかける。
そして、「日本に電話をしたいのですが、」と言うと、
レフチェンコは、「その電話で日本にかけられます。日本の国番号は
81
です。」と言った
木村は、「スパシーバ(ありがとう)。」と言って電話を切り、会社に電話をかける。
部長を呼び出してもらい、「部長、海外で大変なトラブルに巻き込まれ、すぐに帰ることがで
きません。有給がかなり残っていた筈なので、それを使ってしばらく休ませてください。」と
言うと、
部長は、「どれくらい休みたいのか。」と聞いた。
木村が、「一ヶ月ほど。」と言うと、
部長は、「しょうがないな、この際はなんとかするが、早く戻らないと席がなくなるぞ。」
と言った。
木村は、「ありがとうございます。」と言って電話を切った。
そして、徹底的にこの調査を行うことを決意した。
残念ながら、情報取り扱いのミスにより、二人の出発日と便名はフリーメイソンに洩れてし
まった。
また公安調査庁も、「事件がまだ何も起きていない。」という理由で身辺保護要員をだれも成
田空港に向かわせなかった。
第四章 日本に戻る
安東組との関係
かつて東京を中心に、大きな勢力を持っていた安東組という暴力団があった。昭和60年に
警察の厳しい摘発もあり、解散宣言を出していた。その組長安東清は、テンプル騎士団の流れ
を汲むフリーメイソンのメンバーであった。必ず年に一度はロンドンを訪れ、この団体の宗教
行事に参加していた。
この宗教行事は全員が修道士のような格好をし、テンプルのマークが入った金色の鎖(テ
ンプルの鎖)を首に賭ける。
そしてテンプルの剣と言われる、垂直に立てられた剣の周りを、何か訳の判らない言葉を発
しながらぐるぐると廻る。宗教行事は秘密の地下修道院で行われ、その場所を洩らしたものは
抹殺される。
安東清の死後、このテンプルの鎖は娘の安東緑に引き継がれた。安東緑も同様、年に一度ロ
ンドンの友人に会いに行くと言って、この集会に参加していた。
安東組は解散後も経営コンサルタントと称し、安東緑
45
歳を社長とし存続していた。六本木
ヒルズにオフィスを構え、一見一流の会社のように見えていた。しかしその実態は、品のいい
総会屋ということであった。中にいる人間も、夏でも長袖を着て、「もんもん。」を隠し、一流
のサラリーマンのように見えた。
この、「Ando Consultant Inc.」のロゴマークは、
なんとテンプルのマークであった。
9月
13
日 午前8時
安東緑の秘密の携帯電話に電話がある。電話は名前も名乗らず、「9月
18
日午前
11
時にモス
クワから成田空港に着く、アエロフロート575便に乗っている、木村孝という人間をヒット
しろ。」とのことであった。
緑は、「Yes.」と小さな声で答えた。しかし安東組は解散して随分経っていたので、最近ヒッ
トに手を染めていなかった。
緑は、「恐喝ぐらいなら毎日やっているのだが。」と自問しながら悩んだ。
そのとき緑は、西村の伯父貴のことを思い出した。西村の伯父貴とは西村奉天といい、西村
組を率い戦後の混乱期に大活躍をした人間である。緑の父、清とは、杯を交わした義兄弟で緑
の後見人でもあった。
確か
10
年ほど前、支払いの悪い会社の総務部長を、西村の伯父貴に頼んで電車のホームから
突き落としてもらったことがあった。
このときはさすが西村の伯父貴で、飲み過ぎによる転落事故として処理され、ほとんどマス
コミにも載らなかった。
緑は、「そうだ、西村の伯父貴に頼もう。」と小声で囁き電話としようとするが、一瞬、伯父
貴の年が気になった。確かもう80歳以上である。
緑は少し悩んだが、やはり「西村の伯父貴」しかいないと思った。
西村は現在引退して、渋谷南平台の超高級マンションに住んでいた。
9月
13
日 午前8時
30
分
緑は西村の伯父貴に電話を掛ける。「ミドリです。おじきお元気、」、
西村は、「おおー、ミドリちゃんか。最近は随分活躍しているらしいな、この前テレビで見
たよ。」と答えた。
緑が、「おじき、ちょっと話があるので今日会えないかしら。」と言うと、
西村は、「午前中病院に行かなくてはならないので、午後ならいい。」と返事をした。
緑が、「分かった、おじき2時でいい。」と言うと、
西村は、「2時なら戻っている。」と答えた。
緑は、「2時にそちらに行きます。」と答えて電話を切った。
午後2時
緑は真っ赤なドレスを着て、赤いポルシュ914で、西村のマンションを訪れた。地下駐車
場に入り、西村のゴードルメタリックのロールスロイスの隣に自分の車を止めた。それからエ
レベーターで最上階の西村の部屋に昇った。部屋の前に行くと、大きなテレビカメラがこちら
を睨んでいる。
緑は入口でガードしている組員に、「安東です。」と言うと、
その組員は、「お待ちしておりました。」と言い、ドアを開け中に案内した。
西村が出て来て、「ミドリちゃん、随分久しぶりだねえ。」と親しげに話しかけた。
緑も、「おじき、元気そうでよかった。」と答えた。
西村が、「ミドリちゃん、テレビで大活躍だねえ、何か不都合なことがあれば言ってくれ。
俺もテレビ界には顔が広いから。」と言うと、
緑は、「おじき、ありがとう。でも今日は別の話で来たの。」とちょっと深刻そうな顔をした。
西村が、「どうしたんだ、何でも話してくれ。」と言うと、
緑は、「おじき、ありがとう。」と言って、「実はヒットして欲しい人が一人いるの。」と言い、
西村の顔を見上げた。
西村が、「うん、どんな人なのか。」と聞くと、
緑は、「9月
18
日に成田に着く、商社マンをヒットして欲しいの。」と言った。
西村は少し考えた後、「ミドリちゃん、それは結構大変な仕事だなあ、3000万ぐらいか
かるよ。」と答えた。
緑が、「おじき、OKよ、3000万円で出します。」と言うと、
西村は、「分かった。」と言った後、一拍おいて、「豪田という男から電話をかけさせる。豪
田に詳しい話をしてくれ。」と答えた。
緑は、「おじき、ほんとにありがとう。」と言って立ち上がろうとするが、
西村が、「待った待った、ミドリちゃん、これを持っていってくれ、」とショッピングバック
を渡す。中を見ると、緑の大好物のいなげ屋のパウンドケーキが入っていた。
緑は、「おじき、まだ覚えていてくれたのねえ、今の私はおじきのお陰です。」と丁寧なお礼
を述べ、西村のマンションを離れた。
9月
14
日 午前9時
緑に豪田から電話が入る。
作品名:ダヴィンチコード イン ジャパン 作家名:HIRO サイトー