ダヴィンチコード イン ジャパン
木村は、「何か興味のあるものがあったらすぐ呼んでください。」と言って、資料を調べ始める。
資料は本もあるし、ダンボールの中に書類がぎっしり入っているものもあった。
木村はひとつひとつ手に取って、中を見ていく。
5・6時間が過ぎた。一つの棚の調べるのに1日はかかりそうであった。そこにレフチェン
コから電話が入る。
レフチェンコは、「9階のレストランに夕食が用意してあります。」と言った。
木村は、「ありがとうございます、すぐに行きます。」と返事をして、ナターシャにその旨を
伝えた。
ナターシャは資料を片付けながら、「分かりました。」と返事をした。
二人は階段で一階まで上がり、エレベーターで9階に向かう。
もう8時過ぎなのに、まだ外は明るい。
木村はナターシャに、「ロシアの夏は何時頃、日が暮れるのですか。」と聞いた。
ナターシャは、「サンクトベトロブルグでは夜11時頃まで明るい。」と答えた。
9階のレストランに行くとレフチェンコが待っていた。レフチェンコの案内で席に着く。
木村がビザのことを思い出してレフチェンコに、「僕のロシアのビザは切れてしまうがどう
しようか。」と尋ねると、レフチェンコはウインクをして、「そんなことは気にしなくていい。」
と言った。
レフチェンコもテーブルに着き、3人で食事を始める。食事はボルシチと、黒パンにサラミ
とタンのハムという比較的簡単なものだった。
ナターシャがレフチェンコに、「資料が膨大なので調べるのにかなりの時間がかかる。」と言
うと、レフチェンコは、「時間ならいくらかかってもかまわない。」と言い、続けて、「お二人
に時間の都合がありますか。」と聞いた。
木村は会社の休暇は2週間だったが、この際は徹底的に調べるつもりだったので、「特に予
定はありません。」と言った。
ナターシャは、「私は仕事が気になります。」と言うと、
レフチェンコは、「そのことは気にしなくてもいい。今ホテルに戻ることは危険です。」と言っ
た。
ナターシャはボルシチにスミターナ(サワークリーム)を入れかき混ぜながら、「両親が心
配します、連絡を取りたいのですが。」と言うと、
レフチェンコは、「急な仕事で日本に行かなくてはならないと、両親に伝えたらどうですか。」
と言った。
ナターシャは、「分かりました。明日電話します。」と答えた。
木村は黒パンにスミターナ(サワークリーム)を付けて、その上にタンのハムをのせて食べ
ながら、レフチェンコに、「資料が膨大にあるので、キーワードで検索することができませんか。」
と聞くと。
レフチェンコは、「ナターシャさんに渡した一覧表のもっと詳細なものがあります。後でお
渡しいたしましょう。」と言った。
ナターシャは、この事件に何か運命のようなものを感じているようであった。
木村はキリストに出会った感動を忘れられず、この調査が自分の責任であるように感じてい
た。
三人が食事を済ませると、レフチェンコが、「一覧表の詳細を持って来る。」と言って席を立
つ、しばらくして10cmぐらいある厚い本を持って戻って来た。そして無言で、その本をナ
ターシャに渡す。
レフチェンコが、「今日はここまでにしよう、明日朝8時から始められるようにします。危
険だから絶対に外に出ないで欲しい。朝食は部屋に届けさせる。」と言った。
二人は、「スパシーバ(ありがとう)。」と言って部屋に戻った。
木村はさっきの一覧表の詳細が気になっていた。そしてナターシャの部屋に電話をかける。
「ナターシャさん、さっきの一覧表に付いてお聞きしたいのですが。」と言うと、
ナターシャは、「今、私も中身を見ています。こちらに来ませんか。」と言った。
木村は、「分かりました。」と言って、前のナターシャの部屋に行く。
二人で厚い本を眺めるが、ロシア語で書かれているため木村には中身が分からない。
木村は、「竹内古文書、青森のキリストの墓、ダヴィンチというキーワードはありますか。」
と聞くと、ナターシャは厚い一覧表をしばらく眺めた後で、「竹内古文書、ダヴィンチというキー
ワードはあります。」と答えた。
ナターシャが、「竹内古文書は616号セクション25番の30、ダヴィンチは616号セ
クション40番の1。」と言った
木村はあわてて部屋にあったメモ用紙を取り出し、メモを取った。
ナターシャが、「ニコライ堂は616号30番の1、函館の正ハリス教会は616号30番
の2。」と付け加えた。
木村は、「ラーメンのマークに関する記述が何かありますか。」と聞くと、
ナターシャは、「特にないけど、資料の中に何回も出てくるみたいです。」と言った。
木村は、「明日僕は竹内古文書とダヴィンチのことを調べる。」と言うと、
ナターシャは、「私はあのへんな団体のことを調べます。」と言った。
その後木村が部屋に戻ろうとすると、
ナターシャが、「もう少しお話をしませんか。」と言った。
木村は、「ダー(分かりました)。」と答え、話始める。
木村が、「ロシアの生活はどうですか、共産主義時代と変わりましたか。」と聞くと、
ナターシャは、「大変変わりました。今、自由はあります。」、「しかし大変物価が高いです。」、
「ロシアの賃金は月400ドルぐらいですが、モスクワには一人100ドル以上のレストラン
がたくさんあります。そのレストランは大変繁盛しています。木村さん、この意味が分かりま
すか。」と聞き返した。
木村はちょっと考えた後で、「金はあるところにはあるということではないでしょうか。」と
答えた。
ナターシャはちょっと目配せして、「私の母は歯医者なのでお金にはあまり困らないのです
が、一般の人の生活は大変です。」と言った。
木村が納得したような顔をすると、続けて、「木村さん、ガールフレンドはいますか。」と聞
いた。
木村が、「桃子というガールフレンドがいる。」と答えると、
ナターシャは少し寂しそうな顔をした。
木村が、「随分遅くなったのでそろそろ休みましょう。」と言うと、
ナターシャも、「ダー(はい)。」と答えた。その後、木村は自分の部屋に戻り休んだ。
竹内古文書とダヴィンチ
9月7日 午前8時
木村はドアをノックする音で目を覚ました。あわてて起き上がりドアを開ける。朝食が運ば
れてきた。急いで朝食を食べ、コーヒーを飲みながらナターシャに電話をかける。「ナターシャ、
今朝食を食べている。」と言うと、
ナターシャも、「私も食べています。食べ終わったらそちらに行きます。それから資料室に
行きましょう。」と言った。
木村は、「分かりました。お待ちしております。」と言って電話を切った。しばらくするとナ
ターシャが木村の部屋に来る。そして、「昨日変なことを聞いたりしてごめんなさい。」と言った。
木村も笑顔でその言葉に答えた。それから1階で鍵を受け取り、二人で地下の資料室に向かう。
作品名:ダヴィンチコード イン ジャパン 作家名:HIRO サイトー