ダヴィンチコード イン ジャパン
支配人が飛んできて、「リガチョフ様、何かスープに問題があるのですか。」と悲壮な顔つきで
聞いた。
リガチョフは冷静な口調で、「これは国家の機密事項なので、絶対に他言しないでくれ。」と
言った。
支配人は直立不動で、「分かりました。絶対に他言いたしません。」と答えた。それからその
スープを持ってきて、ポリ容器に入れてリガチョフに渡した。
リガチョフはそれを持ち目配せして、待たしてあった車に乗ってオフィスに戻った。
木村とナターシャは注意深く外に出て、屋台のサンドイッチを食べた。
それからナターシャは仕事に戻り、木村は部屋に鍵をかけ中にこもった。
そのときフリーメイソンは、「復活したキリストがローマの弾圧を逃れて、400年もの長
い間遠いアジアの地に行っていた、などと言うことが表ざたになれば大問題である。ヨーロッ
パの歴史はひっくり返ってしまい、ヨーロッパ人は精神的支柱を失ってしまう。そしてモンゴ
ル来襲以来の大ショックを受け、100年早くアジアの時代が来てしまう。」、
フリーメイソンはそんなことを決して容認できない。そして、エルサレムの聖墳墓教会でモ
ナリザトランプを受け取った、木村の抹殺を決定する。
サンクトペトロブルグからモスクワへ
9月5日 午前7時
ナターシャから木村にびっくりする電話がある。
ナターシャは、「今、ユーリーから電話がありました。スープの中にポロニウムという猛毒
の放射性物質が入っていた。ユーリーがこちらに来る。あなたの身辺保護員を連れてくるそう
です。」と言うと、木村は、「それはありがたい、ナターシャさんのお陰です。スパシーバ・バ
リショイ(本当にありがとう)。」と深い礼を述べた。
9月5日 午前8時
リガチョフが身辺保護員のカチン・マルスキーを連れてやって来た。マルスキーは1m92cmの長身で英語が堪能、日本で空手と柔道を勉強した関係で日本語もかなりできる。
木村はマルスキーに、「よろしくお願いいたします。」と挨拶をした。
リガチョフが、「ここは危険だからKGBが用意する郊外のホテルに移動する。ここは偽装
のため、チェックアウトはしない方がいい。支払いの心配はしなくていい。こちらで処理する。」
「ナターシャも安全のため、一緒に行く。」と言った。
すぐに荷物をまとめ、目立たぬよう裏口からリガチョフの車に乗り込む。
リガチョフの車はアメリカ製のランドクルーザーで、イラク戦争でも使われていたあの頑丈な
車だった。
まず木村とナターシャがその車に乗り込む。
マルスキーはあたりを見廻った後、木村の荷物を持って車に乗り込だ。
リガチョフが、「今日は郊外のホテルに滞在し、明日朝一番の飛行機でモスクワに行く。こ
れは簡単な朝食です。」と言って、サンドイッチとミネラルウォーターをみんなに配り、車に
乗り込んだ。
3人は、「スパシーバ(ありがう)」と答えた。
リガチョフはその後で、「KGBが持っているキリストに関する興味ある資料をお見せしよう。」
とウインクして言った。
車は橋を渡り3時間ほど走り、海岸近くの小さな町の前で止まった。そこに表札もない、こ
ぎれい民家がる。車をその民家の駐車場に入れ、門を閉めた。それから全員車を降り家の中に
入る。
マルスキーだけは、家の中から双眼鏡とAK47
らしきマシンガンを取り出して再び家の外に
出て行った。
リガチョフが、「KGBのゲストハウスにようこそ、」と言って中を案内する。部屋は7つあ
り、大きさはリビングが30畳ほどと大きく、15畳ほどのキッチンがあり、二階に10畳ほ
どのゲストの寝室が廊下に沿って右に2つ左に3つあった。
リガチョフが、「左側の階段近くの部屋を僕が使う。」と言い、「木村はその隣の部屋。」、「ナ
ターシャは、その前の右側の部屋。」と指示をした。
木村もナターシャもその指示に従い、自分の部屋に荷物を運び込んだ。
リガチョフが、「シャワーは2階の奥にある。トイレは2階の奥と1階の入口近くにある。」
と説明した。
二人は声を合わせて、「スパシーバ(ありがとう)。」とリガチョフに答えた。
リガチョフが、「ここは安全だ。少し早いが下で夕食を食べよう。明日朝早くここを出る。」
と言った。
木村が、「シャワーを浴びてから下に行く。」と答えると、
ナターシャも、「私もそうする。」と言い、二人は部屋に入った。
30分ほど経ってから1階に降りると、リガチョフが食事を用意してくれていた。
リガチョフは、「そこのテーブルに座ってください。シャンペンはお好きですか。」と聞いた。
木村が、「僕は大好きです。」と答えると、
ナターシャも、「私も好きです。」と言った。
リガチョフがシャンペンを開け、「どうぞ。」と言って注ぎ始める。それから、「これはロシ
アのシャンパンです。」言い、「美味いものがある。」と、棚から表面がブルーの色をした丸い
薄いビンを持ってきた。そしてそれを開けながら、「これはロシアのキャビアです。黒パンに
バターを付け、その上にのせて食べると美味しいです。シャンペンとも合いますよ。」と説明
をした。
3人は、「ザナス(乾杯)」と言って乾杯した後、シャンパンを飲み始める。
木村は、「これは美味い、フランスのものに負けてない。」と言い、リガチョフが開けてくれ
たキャビアに手を伸ばした。リガチョフに言われたように、黒パンの上にバターを塗りその上
に小さいスプーンでキャビアをのせる。
それを口に運ぶと、「これは最高!」と声を上げ、リガチョフの顔を見た。
リガチョフは、「にっこり、」と答えた。
そこにマルスキーが入ってくる。大柄の体にエプロンをかけ、食事を運んで来てくれた。
木村はその食事を見てびっくりする。
木村にはボルシチとタンの煮込み。
リガチョフはボルシチとキエフカツレツ。
ナターシャはシーというアイボリー色のスープとゴルブツイ(ロシア風キャベツロール)。
木村は、「昨日食べることが出来なかったメニューを出すとは、さすがKGBは凄い。」と囁
きながら、リガチョフの顔を見上げた。
リガチョフは彼の癖なのだろうか、「また、ウィインク。」して見せた。
3人は食事を食べながら話を始める。
リガチョフはボルシチにスミターナ(サワークリーム)を入れながら、「復活したキリスト
が約400年に亘りアジアの地にいたという事実が、フリーメイソンにとって極めて不都合な
のだろう。彼らはこの事実の発覚を恐れている。発覚を阻止するためならばどんなことでもやっ
てくる。極めて危険な状態です。」と淡々と述べた。
それに対して木村が、「キリスト教というのはそんな考えしか持ち合わせてないのですか。」
と聞くと、
ナターシャが荒々しい声で、「それはキリスト様で金儲けをしようとするあの団体だけです。」
と言い、ちょっと涙ぐんで、「キリスト様は私たち人間の真の幸福を願う偉大な神なのです。
作品名:ダヴィンチコード イン ジャパン 作家名:HIRO サイトー