革命
通りを二人で歩いていると、すれ違う男の全てが振り返る。男達の憧憬にも似た熱い眼差しを受けるのがビオレッタは大好きだ。男達の視線に混ざって、自分よりランクの低い娼婦たちの嫉妬と憎悪の混ざった黒い視線も刃のように彼女達を刺した。が、ビオレッタはその黒い視線を感じる度に、心から安堵した。≪ああ、私はまだ頂点にいるのだわ。女の嫉妬ほど正直なものは有りはしないのだから≫と――。
そうして何とも形容しがたい充足感に身を包みながら歩みを進めていくと、やがて二人の視線の先に今日の客であるテオドールとガエルが現われた。
「やあ、ビオレッタ。今日も美しいね」
テオドールはそう言うと、可愛らしい小花模様のボンボニエールを彼女に手渡した。
「ありがとう」
ビオレッタは花をプレゼントされる事を嫌った。咲き誇っている間は人々に注目されているのに、枯れた姿は誰も見向きはしない――ビオレッタはそんな花そのものが嫌いだった。その事を知る彼女の常連客達は皆、ビオレッタに‘挨拶’として送るものは彼女の大好物であるボンボンを選ぶ事を‘ならわし’としていた。
「ドリーヌ、君の前ではこの花々も霞んでしまうね」
「まぁ、ガエル男爵ったら」
一方ドリーヌはガエル男爵から薔薇とかすみ草で出来たやや小ぶりなブーケを貰っていた。ドリーヌは花が好きだった。たとえ枯れてしまっても、一瞬でも人の心を潤せる事の出来る花を彼女はとても大切にした。