革命
「冗談じゃない!」
ひとつ大きな声を出してみた。すると自然に頭の中が少しだけクリアになった。女は感情の生き物で、こんな風に些細な事でも感情を零せば僅かでも救いが見える事を、ビオレッタは本能でわきまえていた。≪そうだ、冗談じゃない。なんで私があんな男に怯えなければならないの。……怯え? 何を? 私が一体何を怯えるというのだろう≫思考し出たその言葉はだがしかしビオレッタを余計に苛立たせた。
次の瞬間、ビオレッタは脱ぎ捨てたドレスを再び身にまとった。そして窓をガラリと開けると上から蔑むような視線をアルノーに浴びせた。アルノーはそれでもただ見つめていた。自分に気付いてくれていたと言う事実に、子犬のように目を輝かせながら。
「…………」
ビオレッタは押し黙ったまま、だがゆっくりと手でアルノーを招いた。勿論彼女は自分の屋敷に恋人以外の男を入れるつもりはない。そして勿論アルノーを恋人として認めるわけがない。これはビオレッタにとって‘お前は私にとって男ですらない’と公言する為の行為だった。≪あんな男の視線に、気味の悪さを感じながら暮らすだなんて冗談じゃない!≫心でもう一度そう繰り返すと、ビオレッタは再びゆっくりと手招きをした。