革命
「それ、なんですの?」
「クレマチスです」
「そんな事は聞いてないわ。わたくし、花が嫌いですのよ。ご存じなくって?」
「知っています」
「知っていて、わたくしに花を?」
平然と会話を交わし続けてはいたが、ビオレッタの心は怒りに支配されそうだった。ただでさえ相手にしたくなかった男。ただでさえ金も地位もないような男。自分のご機嫌取りを最大限の心尽くしでもってしなければならない男――その男がとったこの行動に、怒り以外のどんな感情が湧こうか。
「あなたが花を嫌いなのは、枯れたら誰も見向きもしないから――だそうですね」
「そうよ。言っておくけどドライフラワーも嫌いよ。枯れてもなお形を残そうだなんて惨めったらしいったらないんだもの」
「僕は枯れた花こそ美しいと思えます」
「だからなに? それはあなたの考えであって、わたくしの感情ではないわ。申し訳ない事だけれど、あなたとはこれ以上の時間を過ごす価値がないと思いますの。わたくし、失礼しますわ」
「気分を害してしまったようで、謝ります! すみません」
既に踵を返していたビオレッタの背中に、アルノーの謝罪の言葉が届く。しかし彼女は振り向きはしなかった。
「ビオレッタ! せめてあなたのドレスの裾にキスをさせて下さい。今日の思い出に」
アルノーは諦めずに悲壮な声を張り上げたが、ビオレッタは振り向かない。
「お断りします。だってそれじゃあ、わたくしのドレスにまであなたの思い出が滲み込んでしまいますもの」
冷たく言い放ったビオレッタの後ろで、大地と何かがこすれ合う音がした。何事かと振り返るとアルノーが地に膝をつけ、ビオレッタを見つめていた。