革命
Impatience pour l'amour
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焦る必要はなかった。テオドールからもこの計画はゆっくりと時間をかけて、そして確実に遂行してくれれば良いと言われていた。ミシェル公爵と対面する手筈も全てマキシミリアンが整えてくれる。ビオレッタはいつも通りにただ‘価値のある女’として毎日を消化していけば良いだけだ。
もっともビオレッタの価値を下げそうな男の相手をしなけらばならない事になってはいたのだが。≪アルノー。あんな男の相手をする事に一体どれほどの価値があるだろう?≫そう思いながらも、彼女には拒絶するすべはない。彼女は娼婦でアルノーは大切な客人からの紹介だからだ。
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鬱屈とした気持ちのまま、アルノーと約束した木曜日がやってきた。あの平民の学生風情の相手をする事に少しばかりの苛立ちと、同時に≪いかに自分を楽しませてくれるのか?≫という意地悪な気持ちを持って、ビオレッタは劇場前へと歩みを進めていた。
今日のビオレッタは真っ白なドレスに身を包んでいて、その白が一段と彼女本来の美しさを際立たせていた。≪平民の学生風情が隣にいて良い女では無いのだと――知らしめてやらなくては≫そんな風に思いながら、自信に満ち溢れた表情で通りを行くと、やがて視界の中にあの青年が現われた。
アルノーはビオレッタを見つけると、パァッと顔に赤みが差し、喜びを抑えきれない様子で彼女の元へと走り寄って来た。
「来てくれたんですね!」
「お約束しましたもの」
にっこりとほほ笑みながら挨拶を交わしたビオレッタだったが、次の瞬間アルノーの持っていた物が目に入ると、あからさまに表情を曇らせた。