革命
ささいな事。ビオレッタがやらされようとしている事に比べたら、テオドールに対するドリーヌの感情なんて、なんて瑣末な事だろうか。全く持って取るに足らないような事だ。しかし、彼女はそうは思わなかった。いや、思えなかった。≪客に本気になるだなんて、馬鹿のする事だわ。そうやって堕ちて行った子を何人も見てきた。私がここで断れば、全て解決する。ドリーヌだって、また‘いつもの仕事’に戻るだけよ。でも……≫ビオレッタはそこまで考えると、思考をリセットするかのように小さく頭を振った。≪でももし――もしもドリーヌとテオドールが本当に結ばれたら? ううん、そんな事ありえない。テオドールは娼婦に本気になるような男じゃ無い。だけどそれをどう伝えればいいの? いや、ドリーヌにはっきりと言ったとしても、彼女はきっと信じはしない。‘自分だけは特別だ’そう思うに決まってる。だって女だもの。好きな男に甘い言葉を囁かれてもなお、自分を冷静に見つめられる女なんて、そうそういやしないんだわ≫そこまで考えた後、ビオレッタは一つ大きく息を吐いた。
ビオレッタにとってドリーヌはただの親友では無かった。まだ少女であった頃からお互いを知り、同じように貧困に喘ぎ身を売る苦しみを共に味わってきた。二人は同業者であり親友であり、そして血は繋がらないといえど姉妹だった。≪ドリーヌが一番傷つかない方法は何か?≫ビオレッタがどんなに革命の事を考えようとしても、結局はその思いに捉われてしまう。目に見えぬ大きなものよりも、近くにいる大切な存在の方が彼女の心を容易く支配する。