革命
そんなビオレッタの様子に満足そうに頷くと、テオドールは部屋の奥へと歩みを進め、最後の男の紹介を始めた。
「それから――彼はアルノ―。まだ学生だが、その資質はとても優れたものを持っているんでね、このサロンにも参加して貰っている」
そう紹介されると部屋の隅で遠慮がちに存在していた若者は、すっと立ち上がりビオレッタの前に跪いた。
「お会いできて光栄です」
「アルノ―は君の熱狂的なファンなんだよ」
テオドールがそっと耳打ちしてきたが、ビオレッタの心には全くと言っていいほど響いてこなかった。髪は赤茶色で大きな瞳は澄んだ青色。鼻筋の通った高い鼻にキュッと引き結ばれた唇。そしてすらりと伸びた長い手足――どの角度から見てもアルノ―の容姿はいわゆる美男子のそれであったが、確固たる地位も身分もないような学生風情には、はっきり言ってビオレッタは興味が無い。形だけの微笑みを返したビオレッタとは対照的に、アルノ―は熱っぽい眼差しをビオレッタに向け続けた。
「どうかな、今度。彼の相手をしてみては?」
「あら、残念ですわ。わたくし、これでも忙しいんですのよ。ほ、ほ、ほ!」
冗談じゃ無かった。こんな何も無い若造風情の相手をするだなんて、ビオレッタにとっては屈辱でしかなかった。高らかに笑われ、冷たい視線を彼女から浴びせられたアルノ―だったが、それでも熱が冷めた様子はなかった。
「それでは、私の次の予約を彼に譲ろう」
ふいに聞きなれた威厳に満ちた声がビオレッタの耳に入る。≪まさか? そんな?≫恐る恐る彼女が振り返ると、案の定マキシミリアン伯爵が柔和に微笑みながら、こちらを注視していた。