革命
「マキシミリアン伯爵と、あちらはクロード准将だ」
「ビオレッタ、よく来てくれたね」
「マキシミリアン様がいらっしゃるのですから、当然ですわ」
ビオレッタの受け答えに満足そうにマキシミリアンが微笑むと、その機を見計らっていたようにクロードはビオレッタの元へと歩みを進め、彼女の手を取り軽く口づけをした。
「クロードと申します」
「はじめまして、クロード准将。お会いできて光栄です」
クロードはその容姿から察するに年は40前後といった所だろうか。軍人らしく背筋の伸びた、鋭い眼光の精悍な男だ。茶色の髪にグレーの瞳、そして薄い唇がどこか冷たい印象を人に与える。
二人と挨拶を交わしたのを見届けると、続いてテオドールはマキシミリアンの隣の二人の前へとビオレッタを導く。
「こちらは当家の主治医を務めてくれているベートラン。そしてこっちは私の学生時代の級友で現在は弁護士のクレモンだ」
「お久しぶりです、ベートラン様、クレモン様」
「おや、顔見知りだったかな? いやはやさすがだね、ビオレッタ」
ベートランは数年ぶりにこんなにも近しい距離で見るビオレッタに、思わず心を奪われそうになったが、それをぐっとこらえると、白い物の混じり始めた髭をなでながら温和そうに微笑む。クレモンはというと、まだ36歳と言う若さで、ビオレッタと関係を持ったのはもう10年も昔の事だった。当時のビオレッタはまだ少女に近く、その売値も高額では無かったから、まだ確固たる地位を持っていなかったクレモンでも一夜の相手に名乗りを上げるのは、決して難しい事ではなかったのだ。
「会えて嬉しいですよ、ビオレッタ嬢」
クレモンのその言葉に恥じらうようなそぶりを見せると、彼女はそっとクレモンの手を取った。
「わたくしも……同じ気持ですわ、クレモン様」
極上の美女であり、高級娼婦であるビオレッタにそんな風に言われて、嫌な気持ちになる男などこの世に存在しないであろう。クレモンもまたまんざらでも無い様子で、そんな彼女の言葉に満足げに頷いた。≪クレモンは今となっては、結構な名前の知れた弁護士様よ。媚を売っておいて損はないわね≫そんな内心の計算を気取られないよう、ビオレッタは微笑みをたたえ続けた。