革命
「屋敷に着くと、既にビオレッタは帰った後で――でもテオドール様は私を待っていたって言って下さって……それで」
寝た――のだろう。言葉に詰まったドリーヌを見てビオレッタはそう確信した。しかし彼女の心には客を取られたという怒りの気持ちは微塵も湧いてこなかった。そんな事よりも≪ドリーヌはテオドールに本気になってしまったのだろうか?≫という懸念の方が余程に心配だった。
客に本気になってしまう事は娼婦にとって当然ご法度だ。それは仕事そのものに深い影響を与えるからだ。それも極めて悪質な。
「それで?」
「……それでテオドール様は言ったの」
ドリーヌはビオレッタのサファイアのような青い瞳に見つめられると、全身が射すくめられたような気持ちになった。それでもなんとか唇を動かし、声を絞り出して先ほどまでのテオドールとの会話を再現しようと努力する。
「革命に参加しないか? って。既にビオレッタも誘っているって。だから明日、もう一度ここに来てほしいって」
ドリーヌが震えながらそう言うと、ビオレッタはふいに先程の彼女の言葉が脳裏をよぎった。≪『ビオレッタ……あなたも――――‘革命’に参加するの……?』 あなたも? という事は……≫その考えにビオレッタが行きついたと同時に、決定的な言葉がドリーヌから放たれた。
「私はもう決めてるの。明日、テオドール様の元へと行くわ。ビオレッタ、あなたも? あなたも行くわよね?」