墓前にて
妻が死んだ。
墓前には私と息子。
妻は良い母だったのだろうか。幼い息子は母親の死をまだ理解していない。
私と妻は良い夫婦ではなかっただろう。
私は妻を愛せなかったし、妻も私を愛してはいなかった。
彼女は家庭での役割を的確に演じていたが、幸せには見えなかった。
私と出会わなければ、彼女の人生は大きく変わっていたのだろうか。
病院のベッドで痩せ衰えていく姿が彼女の人生の集約であったのか。
この世に私と息子を残し、独りで去った女。確かに私達は家族だったのに。
不意に誰かが私の袖を引っ張る。息子が早くも帰りたがっている。
私と彼女の息子が。