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アイツ恋愛

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 認めたくない・・でもその通りだ。

「それが涼君が告白したから、友達以上恋人未満になった。・・曖昧な関係は気持ち悪いから、だから現実から逃げたかったんだろう!認めたくなかったんだろう!?どうなの!?凛華!」

畜生。そのとおりだ。私は涼を見ている。嵌っていっている。

「それに、凛は涼君が欲しいんでしょう!?貪欲に・・何よりも欲しいって思ってんでしょう!?」
 ナッキーの手の力が、ふっと抜けた。とたんに、ぺたんと尻餅をついた。
「あんた・・いい加減認めなよ・・。貪欲に求めるなんて・・あんた今までなかったでしょう?」

 これが、恋・・・・・・。

「恋は分からない。・・何なの恋って・・。」
 声を絞り出した。

「これが・・恋だよ。」

 ナッキーは諭すように言った。貪欲に求めることが、嵌っていくことが、このぐちゃぐちゃした気持ちが・・恋。
「なんとなくは・・分かったかも・・」
 ぼそりとした声だったけど、私は認めざるをえなかった。

 ナッキーには悪いけど、あたしの恋に対しての疑問は膨らむばかりだった。

「ピンポーン」
「はーい」
 母の弾むような声が聞こえて来た。あたしはベットに顔をつけたまま、唸ることしか出来なかった。ナッキーにコテンパンにやられて、平気で入れる人はまずいないんじゃないかなぁ・・?でも、そんなことどうでもいい。肝心なのは、一番悔しいのは・・あたしが涼に恋してると認めてしまったことなんだよ。自分で自覚してないのに、恋にされた。これはあたしの一番の悔しさだ。屈辱だ。ひれ伏したことと変わらない。・・あたしは、自分で認めたくないものを認めさせられるのが何よりも嫌いだ。反吐が出るほどだ大っ嫌いだ。畜生。クソヤロウ。
「凛華!凛華!お客さん!」
 あたしは返事をしなかった。
「凛華!凛華!」
 それでもなお返事をしなかった。そしたら、母はあらごめんなさいねぇ、といって、お茶菓子でも出したんだろう。するとその来客は、いえ、かまいませんよ、といった。そのハスキーボイスを聞いたとたん、あたしは一気に目が覚めた。

 涼!

 来客は、どうやら涼だったらしい。ってか、何で今来たのだろう?まさか・・告白(?)の返事を聞きに!?な・・な・・な!!気づけば、階段を駆け上がる音も聞こえてるしぃ・・!!!
「よっす。凛華、起きてっか?」
 考えたのもつかの間、涼はあたしの部屋に入ってきた。別に、幼馴染の腐れ縁だから部屋に入ってこられるのもあいつの部屋に入るのも、呼吸をすることのように自然だ。でも・・なんでいまはいってくんの!?
「おーい、凛!」
 涼が、何回もあたしに声をかけた。でも、あたしは狸寝入り。いや、もとい。寝たふり。(狸寝入りは寝た振りと意味同じだけど)今涼と目があって、平常心でいられる自信がなかった。
「ったく・・寝てんのかぁ・・。」
 そうそう。そう思ってやり過ごしてくれ!
「じゃぁ、帰るとするかなぁ・・。」
 セーフ!
「と見せかけて!」

 は・・?

 負けた。涼に負けた。あたしは、起きてしまった。何で起きたか?それは・・涼があたしの急所をこちょがしたからだ。(あたしはかなり効果覿面の急所を涼に知られていた)
 あたしは腰が弱い。ちょんとつつかれようが、なでるように触られようが、びくんとなって笑わずにいられなくなってしまう。それを、もろにこちょがされたのだ。・・・起きないはずはない。
 で、あたしは涼に完封負けをした。こちょ、とされるどころか、ちょん!だけでひゃっひゃっひゃとなってしまったのだから。

「あははは!!さっすが凛華!腰、相変わらず弱いなぁ。」
 「もう!何でこちょがすかなぁ!」
 ついつい、ガバッと布団から身を起こした。

 あ。

 はめられた!

「へっへっへ。相変わらず凛華は引っかかりやすいなぁ」
 涼は、いたずらを思いついた子供のようににやりと不気味な笑みを浮かべた。あたしは、涼のこの微笑み方が苦手だ。・・なんか、見透かされてるみたいだもんっ!

「はぁ・・寝たふりでやり過ごそうと思ってたのにぃ~!!」

 あたしはついつい本音が出てしまう。涼と一緒にいると、ごまかしも、隠し事も聞かない。だっから頭が上がんないんだよなぁ・・ちっくしょう!

「あ。凛華!」

「へっつ!?」

 素っ頓狂な声が出た。これも、涼といると必ず出てしまう。
「おまえ今、ちくしょうって思っただろう!?」
「はぁ!?思ってないよ!思ってても隠してるよ!」

 あ。また暴露。

「あっはははははははははっは!・・またおまえ暴露した!死ぬーーーー。ひゃっひゃっひゃ!」
 涼は体を激しく震わせて、涙をこぼした。ひさしぶりに見た、涼特有の子供っぽい笑い方だ。あたしは・・最近なんでこの笑い方を見てなかったんだろう?ずっと一緒にいて、何でも知ってるのに・・。
「涼。あんた、半分死んでない?」
 あたしは、あたしの布団の中にうずくまっている涼に声をかけた。返事は返ってこない。
「ちょっと涼ってば!」
 あたしは布団を剥がした。驚いた涼が笑っていた・・はず。
 涼は寝ていた。すーすーと規則正しい寝息を立てて、あたしの枕も布団も占領して、気持ちよく眠っていた。

 あいつ、人の布団で眠れないってたちだったのに・・。

 あたしは、昔のことを思い出していた。


 あん時は確か小・・3だったかなぁ・・?あの時涼は今と違って泣き虫で人見知りばっかしてた。

 あたしのいとこが遊びに来た時のこと。未樹斗っていう、あたしより四歳年上のかっこいい男の子が来た。あたしは未樹斗が好きだったから、未樹斗にひっついていた。未樹斗が買い物にいったとたん、そこに涼が遊びに来て、あたしに「遊ぼう」って言ったんだ。あたしは未樹斗と三人で遊ぶってつもりでいいよっていった。

 未樹斗が、あたしの部屋に入ってきたとたん、アイツは泣き出した。あんまりにも驚いたもんだから、あたしと未樹斗はひっくり返ってしまった。
「うわーあぁぁん。怖い、よぉーー!」
 って何回も叫んでいた。あたしは仕方なく、涼を布団に寝かせた。涼は泣いた時、寝ると自然と収まるって事を知っていた。その時からお互いなんでも知っていた。
 布団をかけたとたん、涼はさっきより大声で泣いた。
「わぁぁぁぁぁぁん!僕の布団じゃなきゃいやだぁ!」
 と、訳もわかんないことを叫んで。

 あんまりうるさかったから、母が気づいたらしい。涼をむんずと掴みあげ、涼の家まで連れて行ってくれた。・・その後未樹斗ときまづかったのは、言うまでもない。

 なんだ、あたし、涼のこと知ってると思って、なーんにも知ってないな。

 あたしはのんきにそう思っていた。そういうのって、面白い。ゾクゾクするほど快感だ。相手の知らない面を知っていくなんて。

 あたしは自分を簡単にさらけ出せない。自分で自分自身を偽って、いつも用心深く生きてきた。分かってもらおうなんて、さも思っていなかった。おまえのことは何でも知ってると言われるのは、だいっ嫌いだった。
作品名:アイツ恋愛 作家名:Spica